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金正恩党委員長によって処刑されたと思われていた北朝鮮きってのイケメン俳優、チェ・ウンチョル氏が実は生きていて、最近になって政治犯収容所から釈放されたとの情報については、すでに本欄でも言及した。

チェ・ウンチョル氏は1980〜90年代にかけて、北朝鮮の映画界で活躍した。脱北者で平壌中枢の人事情報に精通する李潤傑(イ・ユンゴル)北朝鮮戦略情報センター代表によると、「北朝鮮的な美男子」であったチェ・ウンチョル氏は、演技力以外にも多才なところを見せつけ、女性たちから爆発的な人気を集めた。

(参考記事:【写真】北朝鮮の「イケメン俳優」チェ・ウンチョル

ところが、金正恩氏の叔父である張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長の縁戚となったことで、彼の運命は大きく変わってしまった。一時は北朝鮮のトップ女優で、張成沢氏の愛人だったキム・ヘギョン氏らとともに粛清されてしまったのだ。

(参考記事:【写真】女優 キム・ヘギョン――その非業の生涯

彼が送られた政治犯収容所は、ありとあらゆる人権侵害の行われる「この世の地獄」とも言われている。処刑されずとも、一度ここに囚われたら生還するのはきわめて難しいとされる。

そこから救い出せるのは、最高指導者の「鶴の一声」だけだ。ではなぜ金正恩氏は、彼を呼び戻したのか。

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韓国のリバティ・コリア・ポスト(LKP)によれば、チェ・ウンチョル氏は釈放されてすぐ、朝鮮労働党の39号室に「出勤」させられたという。39号室は、金正恩ファミリーの秘密資金を管理する部署だ。金正恩氏はチェ・ウンチョル氏に対し、海外に隠された張成沢氏の秘密資金回収に協力するよう命じたとされる。

北朝鮮でもごく一部の権力者たちは、やりたい放題に振る舞っている。気に入った女性を片っぱしから愛人にすると思えば、不正蓄財にも励んでいる。

(参考記事:【動画アリ】ビキニを着て踊る喜び組、庶民は想像もできません

張成沢氏は、最高幹部の中でも「実力ナンバーワン」と言われていただけに、相当な額の資金をため込んでいても不思議ではない。

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密名を帯びたチェ・ウンチョル氏はいま、マカオやシンガポールを回っているという。しかしLKPにこの情報を提供した事情通は、「チェ・ウンチョルが短時間で秘密資金を回収するのは難しい」と見ている。

「なぜならチェ・ウンチョルは、秘密資金の口座番号や暗証番号の半分までしか知らないからだ。張成沢の秘密資金は、現地の銀行などに、現地人名義で隠されている。残る半分の情報は、名義を貸した現地人が知っている」

ということは、名義貸し人が協力すれば回収は可能なのかもしれないが、そのためには「大人の取引」が絡んでくる可能性もある。回収に失敗した場合、チェ・ウンチョル氏の運命はどうなってしまうのだろうか。

(参考記事:「幹部が遊びながら殺した女性を焼いた」北朝鮮権力層の猟奇的な実態

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記