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計画経済という建前を維持したまま、なし崩し的に進む北朝鮮の市場経済化。それに伴い、国の機関、国営企業、協同農場に籍を置いているのに実際は出勤しない労働者(が急増している。その現状について、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

平壌近郊にある流通の要衝、平城(ピョンソン)市で最近、現地の朝鮮労働党委員長がが次のような指摘を行った。

「協同農場と国営企業所の出勤簿を見ると、どこも7割以上が出勤となっているが、実際に現場に行ってみると労働者の姿はほとんど見かけない」

委員長は、出勤していない労働者の多くが職場を放棄して市場で商売をしているとして、注意せよとの指示を下したという。

出勤率7割でも極めて低いのに、現実はそれよりさらに低い。なぜ、これほど深刻な職場放棄が起きてしまうのか。それは、受け取る月給が少なすぎて全く生計が立たないためだ。

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国営企業の労働者の平均月給は4000北朝鮮ウォン(約52円)。コメ1キロすら買えない額だ。ダブルワークをして、副業をメインにしなければたちまち餓死してしまう。しかし、男性は何らかの機関や企業に属する義務がある。さもなくば「無職」扱いとなり、処罰されてしまうのだ。

行政処罰法第90条(無職、遊び人行為)

正当な理由なく、6ヶ月以上派遣された職場に出勤しなかったり、1ヶ月以上離脱した者は、3ヶ月以下の労働教養をさせる。罪状の重い場合には、3ヶ月以上の労働教養をさせる。

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そこで、職場の上司にワイロを掴ませて出勤扱いにしてもらい、商売に精を出すというわけだ。これが「出勤率7割」のからくりだ。

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公式の職場に縛られることのない女性は、よりいっそう商売に励んでいる。内部情報筋は、平城では多くの女性が、トンジュ(金主、新興富裕層)宅の家政婦として働いていると伝えた。

「市内の駅前洞(ヨクチョンドン)、中徳洞(チュンドクトン)、平城洞(ピョンソンドン)、恩徳洞(ウンドクトン)、陽地洞(ヤンジドン)には金持ちが多い。それらの地域の『トンジュ・マンション』と言えば知らない人がいないほどで、家政婦として働く女性が多い。採用されるのは、上品で料理が上手く衛生に気を使う女性だ。家事一切を引き受けて、月給は15ドル(約1600円)前後だ」

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15ドルは12万北朝鮮ウォンに相当する。つまり、父親や夫が国営企業からもらう月給の30ヶ月分を、1ヶ月で稼げてしまうということだ。しかし、これとて充分とは言えない。

デイリーNK編集部が2016年に行った、それまでの1年以内に韓国に来た脱北者へのインタビューによると、現在の北朝鮮で家族4人が1日3食をきちんと食べ、衣食住に大きな不足がない生活をするのに必要な金額は、毎月中国人民元で400元(約6500円)から700元(約1万1400円)だ。

家政婦たちの場合はおそらく、「雇用者が食事を提供する」という条件と引き換えに、賃金が安く抑えられているものと思われる。

このように地方から都会に出てきて「辛い仕事でも安い賃金で引き受ける」という人と、従来からの都市住民との間で、仕事を巡る激しい競争も起きている。市場や駅周辺の食堂や屋台など、あらゆるところで「地元民vs.移住者」の競争が起きているのだ。

移住者は安い賃金でも働くため、より仕事を得やすい反面、地元の権力者とコネがないため、トラブルに巻き込まれればたちまち一文無しになってしまう。そもそも、許可なしに移住すること自体が違法だ。

一方で、平城の居住権を持つ地元民は、コネとカネの力で移住者よりは安全に働けるが、国営企業などの職場をワイロを払って無断欠勤しているのは前述したとおりだ。彼らも違法状態に置かれている点では、移住者と変わらない。

権力者やトンジュばかりが儲かり、一般庶民が少ない利益を取り合っているのが、今の北朝鮮の現状だ。社会のヒエラルキーの下部にいる人ほど、富を搾取される構造だ。

権力者とて、違法状態に置かれている点では庶民と変わりない。権力者も一般労働者も、受け取る公式の給与にさほど差はないのだが、リベート、キックバック、ワイロなど様々な収入が得られる権力者の方が収入が圧倒的に多い。

政治、社会、法体系が市場経済化する現状に即していないため、北朝鮮の全国民が犯罪者になってしまっているのだ。

北朝鮮の都市に形成された労働市場は、北朝鮮の市場経済を支えているが、計画経済や国による配給システムなどといったもはや機能していない。そのような「オワコン」に北朝鮮当局がこだわり続ける限り、正常国家への道は遠のくばかりだろう。