中国との国境に面した北朝鮮の両江道(リャンガンド)で、脱北して韓国に向かおうとしていた女性が、保衛部(秘密警察)に逮捕される事件が起きた。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、当局はすでにこの女性の件を住民向けの資料に掲載し、「脱北を試みるものは反逆者」との教育を行っているとのことだ。
北朝鮮当局は、南北の融和ムードを受けて国内で韓国への憧憬が広がることを恐れ、思想教育を強化している。それを考慮すると、この女性はいい「見せしめ」となりうる。
(参考記事:「母性本能を失い堕落した変態」北朝鮮が韓国女性を侮辱)情報筋によると、今年6月に中朝国境付近に住むある女性が、先に脱北して韓国に住む夫と携帯電話で脱北の相談をしていた最中に、保衛部の要員に踏み込まれ現行犯で逮捕された。
取り調べで女性は「1ヶ月に9回、夫と通話した」と自白したと情報筋は伝えた上で「韓国との通話に加えて、脱北を試みたことを考えると、軽い罪では済まされないだろう」と見ている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮は2015年に刑法を改正し、韓国や中国など外国との通話を禁じる条項を追加した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面第222条(非法的な国際通信罪)
非法的に国際通信を行った者は、1年以下の労働鍛錬刑に処す。前項の行為の罪状が重い場合には5年以下の労働鍛錬刑に処す。
しかし、実際の量刑は法律の規定を遥かに超える。2015年8月、同じ両江道で中国キャリアの携帯電話を使って韓国に定期的に電話をかけていた女性3人が逮捕、処刑された。今回逮捕された女性も同じ運命をたどる可能性がある。
この女性は、隣人の通報で逮捕された。
「女性は家財道具を売り払おうと、近所の人を呼び集めてガレージセールを行った。買ったものを運ぶ人々が行き交う様子を見ていた人がいた。普通ならそれぐらいでは変に思われないが、夫が脱北しているため怪しいと思われたようだ」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、友人宅の電話を借りて兵役中の息子に「早く帰ってこい」と連絡したのを盗み聞きした友人が、隣人に話したところ、噂が広がってしまい、「あの人は脱北を企てているに違いない」と思った誰かが密告したようだ。
通報を受けた保衛部は、女性宅のそばに電波探知機を設置し、3日間にわたり通話内容を盗聴。証拠固めをした上で、通話中に踏み込み逮捕した。
情報筋の話だけ聞くと、この女性の行動は不自然なほど迂闊だ。
韓国や中国と日常的に通話している人は、保衛部が設置した電波探知機を避けて山奥に行ったり、保衛部にワイロを掴ませたりしている。つまり、いい金づるとなっているというわけだ。
家族に脱北者がいる人は、常日頃から保衛部の監視やゆすりたかりにあっているため、行動や言動に人一倍注意を払う。それを考えると、自宅で携帯電話を使って韓国にいる夫に複数回電話をかけるという女性の行動は、あまりにも迂闊すぎるのだ。
ここから考えられるのは、保衛部にワイロを支払って韓国に電話をかけていたが、何らかの事情でトラブルが発生したか、保衛部の認める範疇を超える行動、つまり脱北を行おうとしたために逮捕されたのではないかということだ。
あるいは、初めから「見せしめ」ありきの取り締まりだったとの見方も可能だろう。