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北朝鮮の農民が「ヤミ金」にはまって苦しんでいる。ヤミ金被害はただでさえ貧しい北朝鮮の農村をいっそう荒廃させ、女性たちが生き延びるため、売春に走らざるを得ないような状況も生んでいる。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

それにしても、社会主義を標榜している北朝鮮で、どうしてヤミ金がまん延するのか。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋が米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、平城(ピョンソン)市の慈山(チャサン)協同農場は、田植え実績が最も良好だと評価されているが、それにはからくりがあった。

「国は農業機械用の燃料を配給しないのに『田植えをシーズン中に終えろ』とうるさい。そのため農場は、商人から農業機器用の燃料をツケで購入して田植えを行っている」(情報筋)

慈山協同農場など、現段階で田植えを半分以上終えられたところは、このようなツケで燃料を確保し田植え機を使っている。ツケは、秋の収穫後に倍にして返済する条件で、農民の足元を見た暴利と言える。

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このような「ツケ」は、今に始まったことではない。

「(1990年代後半の大飢饉)『苦難の行軍』の後から、協同農場は毎年春になるとトンジュ(金主、新興富裕層)からカネを借りて、ビニール膜、肥料、農薬を市場で購入するようになった」(情報筋)

(参考記事:「街は生気を失い、人々はゾンビのように徘徊した」…北朝鮮「大量餓死」の記憶

ところが、当局が露骨なヤミ金営業をおこなっているトンジュに対する取り締まりを強化してからは、「ツケ」の形にして秋の収穫後に2倍にして返す習慣が定着した。しかし、これも高利貸しであることに変わりはなく、返済が滞ることも少なくない。

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北朝鮮の農業は、病虫害や災害に極めて脆弱で、収穫量が減ることが多いのだが、政府は収穫量に関係なく、軍糧米(軍に供給する食糧)として収穫の一定量を徴収する。そのため、返済原資がなくなってしまうのだ。

東京新聞は2016年1月、「北朝鮮 核の挑発(1)結束狙う足元、火の車」と題して報じた記事の中で、次のように書いている。

〈春をひさぐ女性が増えたという。農村の若い女性の場合、「トウモロコシ1キロ分が対価」とは、貿易商の説明だ……〉

(参考記事:【動画:単独入手】 北朝鮮で「生計型売春」が増加

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こうした現象もおそらくは、ヤミ金への返済難が背景の一部になっているのだろう。ただ、責任をヤミ金だけに問うのは公正ではない。彼らがいなければ、農業そのものが滞ってしまうからだ。

最大の責任はやはり、国家としての役割を果たさない金正恩体制にあると言うべきだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記