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2011年末に新義州(シニジュ)の霞下市場にタバコを買いに行った。北朝鮮製のタバコの値段を尋ねると、中国人民元で答えが返ってきた。1カートン50元(約860円)だった。(中略)2012年春、博川(パクチョン)の中心部にある食堂に行って何人かで鍋料理を食べたが20元(約350円)ほどした。北朝鮮ウォンのレートは毎日上がったり下がったりするが、中国人民元は安定している。

(韓国産業研究院「北朝鮮の外貨通用の実態分析」に掲載された脱北者の証言)

北朝鮮ウォンは、経済に破滅的な影響を与えた2009年のデノミネーション(貨幣改革)以降、完全に国民の信用を失い、高価な商品の取り引きのみならず、市場や露店で「今晩のおかず」を買う際にも外貨が使われるようになった。子どもも親にお小遣いをねだる時に「将軍様のお金はイヤ!」と言って、ドルや人民元の小額紙幣を欲しがる。この現象は、地方の中小都市でも珍しくなく、北朝鮮ウォンを使おうとすると「田舎臭い」と言われる。

(参考記事:北朝鮮、広がる外貨使用…「将軍様のお金はいや!」

交通違反の罰金ですら人民元での支払いが求められるほどだった。

(参考記事:北朝鮮、罰金は中国元で払え!…警察も外貨稼ぎに躍起

そんな状況にようやく変化が生じつつある。市場での北朝鮮ウォンの流通が増えているというのだ。

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新義州の情報筋によると、今までは子どもにすらそっぽを向かれていた北朝鮮ウォンだが、ソビ車(個人経営のタクシーや運送車両)のドライバーが受け取るようになっている。いつからはわからないが、米ドルでも中国人民元でも北朝鮮ウォンでも受け取る。

また、情報筋は数日前に訪れたレストランで、勘定が北朝鮮ウォンで行われている様子を目撃したと証言した。

「かつて、高級レストランでは北朝鮮ウォンで勘定しようとすると、支配人に嫌な顔をされたり断られたりしたものだが、今では普通に受け取るようになっていて、すこし驚いた」

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市場で家電を売る商人も「北朝鮮ウォンも受け取る」と言って客をひきつけている。かつては、お釣り以外に北朝鮮ウォンを使うことはなかったという。

別の情報筋によると、同様の現象は平壌でも起きている。

「平壌のタクシードライバーは北朝鮮ウォンで料金を受け取るようになっている。営業終了後に両替商に行くと、決められたレートで両替してくれるから何の問題もない」

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北朝鮮ウォンでタクシー料金を支払おうとすると、レートの計算が面倒なのでドライバーから嫌がられ「常識のない人間」と思われ、追加料金を取られるなど散々な目に遭う。

(参考記事:平壌のタクシードライバー、客の差し出す北朝鮮ウォンに苦い顔

しかし、北朝鮮の商品流通は、中国との合法・非合法の貿易に支えられており、決済が人民元やドルで行われている以上、北朝鮮ウォンが使われるようになっても限界がある。レートが少しでも悪くなれば、今のような状況もすぐにもとの木阿弥になるだろうと情報筋は指摘した。

デイリーNKの調査によると、北朝鮮ウォンの対ドルレートは、2012年12月に8000北朝鮮ウォンに達してから乱高下を繰り返し、短時間で1000北朝鮮ウォン近くも動くことがしばしばあった。それが2017年に入ってから安定し、現在は8000〜8100北朝鮮ウォンで推移している。(1000北朝鮮ウォンは約13円)

国際社会の制裁の真っ只中にある状態でレートが安定している理由は定かではないが、以前よりは信用が回復したのだろう。ちなみに北朝鮮当局は、今までに何度も国内での外貨の使用を禁じる措置を取っていたが、全く効果がなかった。

(参考記事:北朝鮮の一部地域で事実上の通貨「外貨」の使用が禁止