北朝鮮の金正恩党委員長とトランプ米大統領の米朝首脳会談が4日後に迫っているが、非核化を巡る金正恩氏の真意を見極めるのはなお難しい。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、北朝鮮当局は国内向けに、非核化を否定しているとも取れる思想教育用の文書を出した。ほかにも、核兵器開発用に転用できる施設を秘密裏に造成中との話もあり、朝鮮半島情勢の将来は簡単には読めない。

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咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋がRFAに明かしたところによると、朝鮮労働党中央委員会から下された思想教育用の指示文の内容は次のようなものだ。

まず、先月実行された北部核試験場の廃棄を巡っては「数億万金(巨額の資金)を注ぎ込んで建設した創造物を、血の涙をこらえながら爆破したが、その気になれば既存のものよりさらに現代的で、技術的に完璧な施設を建設できる」としている。たしかに、北朝鮮が核兵器開発のために払った代償はハンパなものではなかろう。

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指示文はさらに、「先代の首領(金日成主席、金正日総書記)が守ってきた自衛的国防路線を常に堅持しなければならない。敵が銃刀を持って襲いかかってくれば大砲で抗うという立場を堅持しなければならない」と主張。

また「われわれは、誰もうかつに手が出せない世界的な強国になるために、何十年間も苦しい思いをして血と汗を捧げて成し遂げた成果を、次の世代に受け継がなければならない」として、完全な核放棄はありえないということを示唆しているという。

この手の文書が、金正恩氏の決裁なしに出されることはまずない。つまりこれは、金正恩氏自身の言葉と見ることもできるわけだ。

たしかに、核戦力は北朝鮮にとって、唯一の切り札と言えるものだ。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の規律はめちゃくちゃになっており、通常戦力による戦争では役に立ちそうもないからだ。

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だからこそ、世界の北朝鮮ウォッチャーたちも、金正恩氏が本気で非核化に取り組むかどうか、半信半疑なのだ。カメラの前に現れる金正恩氏は豪放磊落に見えるが、その一方で、きわめて慎重な性格でもある。

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件の指示文は、対話ムードに国民が浮かれ、統制が取れなくなるのを防ぐためのものかもしれないが、いずれにせよ金正恩氏の真意は見えない。米朝首脳会談が仮に上手く行っても、それで「すべて解決」とはならないのである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記