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北朝鮮の非核化は、今や世界中がその行方に注目しているが、同国の庶民はほとんど関心を持っていないようだ。

北朝鮮当局は24日、咸鏡北道(ハムギョンブクト)吉州(キルチュ)郡の豊渓里(プンゲリ)にあった核実験場を爆破する式典を行った。しかし、北朝鮮の国境地域に住む情報筋は、デイリーNKジャパンのカン・ナレ記者の取材に対し、「海外ではどうかわからないが、ここ(北朝鮮)では私も他の人々も核実験場の廃棄にさほど興味を持っていない」と述べた。

それよりも一般の人々は、核実験場の廃棄に象徴される非核化方針より、中国との関係改善に関心があるようだ。金正恩党委員長の訪中後、中朝貿易に復活の兆候が見えていることもあって、「わが国(北朝鮮)が貿易大国になる」というプロパガンダの方が一般国民に人気だという。

一方、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の関係者は「非核化だろうが貿易大国だろうが、兵士たちは『どうでもよい』と思っている」「トウモロコシの粉に少しだけコメを混ぜたものを食べて糊口をしのいでいる有様で、それを『カラス飯』と呼んでいる」と述べた。カラス飯とは、カラスが羽ばたけばコメ粒が飛んでいくほどスカスカであるとの意味だ。

核実験場がなくなろうが、中朝貿易が拡大しようが、兵士たちがカラス飯から解放されるわけではないため、何ら興味を示さないというのだ。

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兵士たちが飢えているのは、北朝鮮経済が疲弊しているからでもあるが、上層部の腐敗の方が原因としては深刻だ。上層部もまた、十分な配給を受けられていないために、権力を武器に自分の利益を確保せざるを得ない。そして中には、横暴が過ぎる幹部もいる。

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そのような幹部たちが部隊に供給すべき食糧を大量に横流ししてしまうため、兵士たちは栄養失調の危機に瀕しているのだ。

この関係者は「中朝貿易の活性化で一般国民の金正恩氏への支持は高まっていることは事実」としつつも、「兵士たちは中央政府への不満が大きい」として、「世界は朝鮮人民軍兵士の不満が爆発し、北朝鮮の体制が崩壊することに備えるべき」だと主張した。

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実際、北朝鮮軍兵士が銃撃を受けながら板門店(パンムンジョム)を突破した昨年11月の亡命事件は、同軍の士気がいかにゆるんでいるかを見せつけた。

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2015年8月、軍事境界線で北朝鮮側が仕掛けた地雷に韓国軍兵士が接触し、身体の一部を吹き飛ばされる事件が起きた。これをきっかけに南北の軍事的緊張が高まると、金正恩氏は韓国軍の圧力の前に、膝を屈するしかなかった。

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これが、北朝鮮が以前にも増して核兵器開発に注力することになった要因のひとつなのだが、金正恩氏は同時に、軍の頼りなさを認識していたのかも知れない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記