韓国の情報当局によると、19日未明に海上ルートで脱北した40代の男性2人は、いずれも民間人だったことがわかった。聯合ニュースが伝えた。1人は当初、軍の少佐であると名乗ったとされるが、その後の調査で民間人であることが明らかになったという。

それでも、過去に軍幹部だった可能性もあり、調査が続いているもようだ。

北朝鮮軍からの亡命と言えば、昨年11月、板門店(パンムンジョム)で銃撃を受けながら韓国側に駆け込んだ兵士の例が記憶に新しい。韓国側に向け追撃兵らが自動小銃を乱射したときの光景は、対話ムードの強まった現在とはだいぶ距離の感じられるものになった。

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しかし、韓国側にとっては今もなお、北朝鮮軍の内部情報は喉から手が出るほど欲しいものだ。実は、北朝鮮軍はすでに、南北首脳会談で発表された「板門店宣言」に従い、米韓と対峙する最前線から相当規模の兵力を後退させているとの情報があるのだ。

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事実なら、このこと自体は好ましいことかもしれない。しかし、大量の兵力が後退しているのなら、それは大規模な軍再編の一部である可能性がある。その全容をつかめなければ、安心材料にはならないのだ。

また、対話ムードにより北朝鮮軍の規律が緩めば、かつてなく多くの兵士が脱北を試みる可能性もある。

一部のエリートを除き、一般部隊は食糧供給さえ十分に行われず、兵士が栄養失調に陥る例が多くある上に、性的虐待が横行するなど軍紀の乱れが深刻だ。

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さらに後方の部隊は、軍事訓練や警戒任務に当たるよりも、各種の建設工事に動員されることの方が多い。貧弱な装備と劣悪な労働環境、無理な工期設定で行われる北朝鮮の工事現場では、深刻な死傷事故が多発している。

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ひと言で言って、北朝鮮軍兵士の多くは「脱北予備軍」とも言える存在なのだ。実際、中朝国境では腹をすかせた兵士が中国側に越境し、強盗などを働く事例も出ている。

戦争の危機を低減させたように見える南北対話の流れも、それはそれでリスクを内包しているのである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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