北朝鮮は、今年からすべての工場、企業所でも生産担当制を義務付けた。それにより、労働者の給料が10倍になった。しかし、それを喜んでいる人は誰もいないという。(丹東=カン・ナレ記者)

「生活費」と乖離

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、生産担当制の義務化により、労働者、事務員の最低給与が既存の10倍の2万北朝鮮ウォン(約260円)に上げられた。この生産担当制の中身について、情報筋は言及していない。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は今年4月、新義州(シニジュ)化粧品工場が市場と共同で生産活動を行い、従業員への配給が増えたと報じているが、生産担当制の義務化と関連がある可能性がある。

(参考記事:市場とタッグを組んで儲ける北朝鮮の国営化粧品工場

通常、給料が10倍になれば、市場でモノを買う人が増えて、物価や為替レートに変化が生じたりするはずだが、そのような現象は見られなかった。

その理由を情報筋は次のように説明した。

「市場の基準通貨はすでに中国人民元になっている。また、他に先駆けて2013年から生産担当制を試験的に導入した単位(工場、企業所、機関)で働いている人は、給料を他より多くもらっていた」

理由はそれだけではない。北朝鮮の市場でのコメ1キロの値段は5000北朝鮮ウォン(約65円)前後であることを考えると、給料全額をつぎ込んでもたった4キロのコメしか買えない。10倍になっても、平均的な4人家族の1ヶ月の生活費50万北朝鮮ウォン(約6500円)とは依然としてかけ離れた額なのだ。

そもそも、給料は一律に引き上げられたわけではないようだ。生産を行い売上がある企業は、労働者の給料引き上げの財源があるが、生産が止まってしまっている地方の工場、企業所には財源がないのだ。

一方、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の協同農場でも生産担当制の導入が始まった。

現地の情報筋によると、協同農場では2012年の「新経済管理体系」の導入で、家族が一定の広さの農地の農作業を任され、収穫に応じて分前を得られる莆田担当制が始まった。

ところが、昨年末に導入された生産担当制では、家族ではなく作業班が農作業を行う形に変わった。これは、莆田担当制導入以前の「分組管理制」に戻ったのか、別の新しいシステムなのかは定かでない。

莆田担当制により収穫量の7割を国が、3割を農民が分け合う形となっていたが、この約束が反故にされた形となった。今年3月に多くの農民が餓死したのも、生産担当制の無理な導入によるものだと情報筋は説明した。

(参考記事:南北対話のかげで餓死者続発…北朝鮮国民の「幸福」は遠い

圃田担当制がうまくいかなかった原因としては、国から割り当てられた収穫量が達成できず処罰されることを恐れた農場幹部が、水増しした収穫量を報告し、それに基づいて来年の収穫量を国が決めることで、農民の取り分がなくなってしまう事態となったことが挙げられよう。

(参考記事:北朝鮮、計画経済と「虚偽報告」が引き起こす食糧難