両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、最近は一般住民が脱北するケースより、幹部が権力闘争のワナにかかり、命からがら脱北するケースが増えているという。

「最近、国境地域などで幹部の脱北が相次いでいるのは、幹部の間での権力闘争が深刻化している証拠だ」

たとえば、松の実の密輸に失敗し、その罪をなすりつけられそうになった下級幹部が家族を置き去りにして脱北する事件が起きている。

(参考記事:密輸失敗の責任を負わされた北朝鮮の下級役人が脱北

一方、今年2月には金正恩氏の「親戚」に当たるとされる国家保衛省の大佐が脱北したとされる。大佐は金日成主席の母、康盤石(カン・バンソク)の父、康ドヌクの子孫、つまり金正恩氏と同じ高祖父を持つ「白頭の血統」に連なる人物だ。当局は現在も大佐の行方を追っているが、発見には至っていない模様だ。

(参考記事:金正恩氏、脱北した「親戚」の殺害を命令

脱北していた北朝鮮の地方政府の幹部が逮捕され、今年5月に北朝鮮に強制送還されていたことがわかった。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、この人物は両江道人民委員会(道庁)の地方工業部の部長だ。情報筋は司法機関に勤める友人の話として、この部長は2016年12月29日、脱北して中国に逃げ込んだが、今年5月初頭に中国公安当局から北朝鮮側に引き渡され、保衛部(秘密警察)に連行されたと伝えた。

地方工業部長はなぜ脱北したのか。情報筋が語る事件の顛末は次のようなものだ。

保衛部に勤める地方工業部長の兄は数年前、保衛部長(道の秘密警察のトップ)が密輸業者を介して韓国の情報機関の関係者と連絡を取り合っている、つまりスパイ行為を行っている証拠を掴んだ。保衛部長はこれに対抗し、裏で権力を行使したものと見られる。兄弟は検察に連行され、厳しい取り調べを受けた。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

2人は嫌疑不十分で釈放されたが、脅迫、拷問などよほど恐ろしい目に遭わされたのだろう。このままではどうなるかわからないと恐怖に怯えた地方工業部長は、保衛部長の不正行為を告発するためとして、中国に脱北した。

つまり、兄の職場の上司の不正行為を掴み、兄弟で内部告発をしようとしたところ、もみ消されそうになったため、国外から知らせようとしたが、あえなく逮捕され、北朝鮮に強制送還されたというわけだ。

ただし、正義感ゆえの行動だったのか、保衛部長を追い落とすためだったのかは、定かではない。情報筋が「権力闘争」という言葉を使っていることを考えると、後者によるものだと思われる。

2人を待ち受けているのは過酷な運命だ。

「部長の兄はすでに保衛部をクビになった。弟が取り調べを受けることになれば、一族はむちゃくちゃにされるのは目に見えている。さらに保衛部長の罪までなすりつけられれば結果は火を見るよりも明らかだ」(情報筋)

つまり、兄弟は銃殺を含めた極刑に処され、家族は山奥への追放、または収容所送りになるかもしれないということだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記