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北朝鮮の朝鮮人民軍が4月29日から、軍事境界線付近に駐屯させていた兵力と装備を大規模に後退させていると、北朝鮮国内の消息筋が伝えてきた。

5月1日、出張で中国を訪れたという北朝鮮のある幹部は、「第2軍団、5軍団、4軍団の前方部隊をすべて海州(ヘジュ)よりも北、軍事境界線から40キロ以上離れた地域に後退させている」と語り、「4月28日に下された朝鮮労働党中央軍事委員会の命令に従った措置だ」と説明した。

性的虐待が横行

北朝鮮国内からは、ほかにもこの証言を補強する情報が伝えられており、北朝鮮軍の兵力後退は事実である可能性が高い。

(参考記事:北朝鮮、軍事境界線一帯の兵力を大規模に後退

韓国メディアはまだ、この動きに言及していないが、いずれ大きく報道されれば、社会的に大きな反響を呼ぶことが予想される。とくに、兵役に我が子を送っている親たちは、少なからず安堵するのではないか。

しかしその一方、同じく兵役で、北朝鮮軍の前線部隊に我が子を送っている親たちは、心配を募らせているようだ。前線に配置された将兵は、配給などの面で軍の中でも比較的優遇されている。しかし後方の一般部隊は食糧供給さえ十分に行われず、兵士が栄養失調に陥る例が多くある上に、性的虐待が横行するなど軍紀の乱れが深刻だ。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

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さらに後方の部隊は、軍事訓練や警戒任務に当たるよりも、各種の建設工事に動員されることの方が多い。貧弱な装備と劣悪な労働環境、無理な工期設定で行われる北朝鮮の工事現場では、深刻な死傷事故が多発している。

(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮の橋崩落事故、500人死亡の阿鼻叫喚…人民を死に追いやる「鶴の一声」

北朝鮮軍の場合、戦争の危険が高まらない限り、後方よりは最前線にいた方が安全な面があるわけだ。

このまま南北対話と米朝対話が進展すれば、いずれ北朝鮮も兵力削減に動き、10年もの兵役期間が短縮され、大量の兵士たちが除隊することもあり得るかもしれない。だが、仮にそうなるとしてもまだまだ先の話であり、現役の朝鮮人民軍将兵の苦難はもうしばらく続くのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記