先月27日に開かれた南北首脳会談で、韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩党委員長が署名、発表した「板門店宣言」。そこには次のような内容が含まれている。
南と北は、地上と海上、空中をはじめとするすべての領域で軍事的緊張と対立のもととなる相手への一切の敵対行為を全面停止することにした。
当面、5月1日から軍事境界線一帯で拡声器放送とビラ散布をはじめとするすべての敵対行為を停止し、その手段を撤廃し、今後の非武装地帯を実質的な平和地帯にしていくことにした。
この「ビラ散布の停止」に、韓国で北朝鮮の人権運動に取り組み、その一環として北朝鮮の人々に体制の問題点や世界の状況を知らせる内容のビラを散布してきた人々は強く反発している。
自由北韓放送のキム・ソンミン代表は、米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に、北朝鮮国民の知る権利は引き続き保証されるべきだとして、次のように述べた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「北朝鮮の人々は動物ではありません。コメよりも『精神的な食糧』がもっと必要です」
キム代表は、北朝鮮の人々が韓流ドラマやK-POPを通じて外の世界のことを知り、世界をもっと知りたいという欲求が高まったとして、ビラ散布を止めてはならないと訴えた。
北韓同胞直接援助運動で、対北風船団長を兼ねるイ・ミンボク氏も「今後より積極的にビラを入れた風船を飛ばす」「政府がむしろ積極的に取り組むべきこと」と反発した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面自由北韓運動連合のパク・サンハク代表は、5日の正午に軍事境界線付近でビラ散布を強行する構えだ。
同団体は、2016年12月に中国吉林省長白朝鮮族自治県から、北朝鮮の恵山(へサン)市にある金日成氏の銅像と普天堡(ポチョンボ)勝利記念塔までドローン2機を飛ばし、北朝鮮当局を激怒させるなど、過激な活動で知られている。
(関連記事:北朝鮮メディア「脱北者がドローンで銅像を攻撃」と猛非難)また、人権団体NO CHAINも1日、北朝鮮に面した韓国の江華島からコメとUSBメモリを入れた2リットルのペットボトル500本を海に流した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮に対して強硬姿勢を示していた朴槿恵政権も、ビラ散布を抑え込もうとしていた。韓国政府は2010年以降、韓国軍によるビラ散布を中止し、民間団体のビラ散布についても「北朝鮮の挑発行為を煽る」という理由で度々阻止してきた。
北朝鮮は2014年10月、ビラ散布のために飛ばされた風船に高射銃を発射。韓国側が応射したことで、短時間ながら南北が銃火を交える事態となった。またその翌年には、対北朝鮮ビラを撃ち落とすための高射銃を追加配備するなど、ビラが軍事的緊張を煽ってきた。
軍事境界線から程近い韓国・坡州市などの住民は「地域が危険にさらされる」として、こうした活動に反対してきた。2014年5月には、地域住民とビラを飛ばそうとする団体メンバーとの間で激しいもみ合いになるなど、トラブルに発展している。
ビラ散布について韓国統一省は、自制を求めていくする方針だが、民間団体の「表現の自由」に当たる活動でもあり、法的根拠がない限りは禁止することはできない。ただ、ビラ散布に北朝鮮が強く反発した場合、韓国世論の批判が人権団体に向かうことも予想される。