韓国の青瓦台(大統領府)は、27日の南北首脳会談の場で北朝鮮の金正恩党委員長が、「失郷民(朝鮮戦争の時に北朝鮮から韓国に避難した人々)、脱北者、延坪島住民などいつ北朝鮮軍の砲撃があるかわからず不安だった方々も、我々の出会い(首脳会談)に期待していると思う」「傷が癒やされるきっかけになればいい」などと述べたと明らかにした。

この発言を受けて、失郷民、脱北者、延坪島住民からは、驚きや期待の声が上がっている。

北朝鮮出身で朝鮮戦争の時に韓国に逃れ家族と生き別れになったパク・ヨンドゥクさんは、韓国KBSの取材に、金正恩氏の発言に驚いたとして「若い人(金正恩氏)は(今までの北朝鮮の指導者とは)考え方が違う、北朝鮮に行ける」と期待感をのぞかせた。

ネットメディアのプレシアンのインタビューに応じた脱北者のイ・ヨンシルさんは南北首脳会談に臨む金正恩氏の姿を見て「影武者ではないか、夢じゃないのか」と疑うほど驚き、朝からテレビにかじりついていたと述べた。

2007年に平壌で開かれた2回目の南北首脳会談を北朝鮮で見ていたイさんは、3回目の首脳会談を韓国で見ることとなり感慨深いと語った。

「北朝鮮では『狼が羊に変わることはない』という形の洗脳教育を徹底して受けました。だから、2回目の会談が開かれた時には特に何も感じませんでした。韓国に来て洗脳が解けて、『脱北者』として暮らすようになった今は、とても感動しています」(イさん)

仁川から北西に120キロの黄海に浮かぶ島、大延坪島に住むパク・テウォンさんはKBSの取材に「もう西海(黄海)の火薬庫ではなく、自由な暮らしができるようにして欲しい」と期待をのぞかせた。

大延坪島は、最も近いところで北朝鮮から7キロしか離れていない。2010年11月の北朝鮮の砲撃で4人の死者が出るなど常に緊張を強いられてきた。金正恩氏は昨年5月、この島に程近い長在島(チャンジェド)防御隊と茂島(ムド)英雄防御隊と視察し、「西南前線を守っている朝鮮人民軍最精鋭砲兵集団は高度の臨戦状態を保ち、いったん命令が下されればかいらいの脊椎骨を完全にへし折ってしまわなければならない」と述べている。

今後の南北関係や非核化への疑念の声も一部では上がっているが、概ね「お祝いムード」にかき消されてしまっている。

北朝鮮に対して強硬姿勢を示してきた保守系野党、自由韓国党の洪準杓代表は27日、自身のFacebookで南北首脳会談を「金正恩と文政権が合作した南北偽装平和ショーに過ぎない」とし、「北朝鮮の核廃棄はひと言も言い出せずに、金正恩の言うとおりに書き取ったのが南北首脳会談の発表」などと批判した。

これに対して、党内から「朝鮮半島の平和定着と南北の交流、協力のために様々な合意がなされたことを意味深く評価する」「文在寅大統領、ご苦労様でした。国民と共に『ハッピーエンド』になるように拍手を持って応援します」(京畿道知事の南景弼氏)と言った発言が相次ぎ、梯子を外された形となっている。

また、同党の羅卿瑗議員は、洪代表に同調して自身のFacebookに「(板門店宣言は)バカげている」と書き込んだが、世論の反発を恐れてか後に書き込みを修正している。保守系野党の正しい未来党所属の国会議員で北朝鮮事情に精通した河泰慶(ハ・テギョン)氏は、自身のFacebookで「非核化への北朝鮮の積極的姿勢を見ると、米朝首脳会談も成果が出る可能性が高い」などと述べる一方で、洪代表を「平和の敵」などと厳しく批判し、政界引退を求めた。

党内でも四面楚歌となった洪代表だが、その背景には今年6月13日の地方統一選挙での惨敗が囁かれている中、世論の流れに背くような洪代表の発言に同調すれば、自らの政治生命が絶たれかねないという各議員らの判断があると思われる。

(参考記事:「金与正も国民虐待の主犯なのに」南北首脳会談に失望の声