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北朝鮮の金正恩党委員長と韓国の文在寅大統領との首脳会談が27日、軍事境界線がある板門店(パンムンジョム)の韓国側施設「平和の家」で行われた。南北首脳会談は11年ぶりである。北朝鮮で、普段から保衛部(秘密警察)の監視と圧迫を受けながら暮らしている人々の間からは、南北首脳会談に期待する声が上がっている。

「弟が管理所(政治犯収容所)送りになってもう18年、生きていれば還暦なのでもう生きてはいないだろうが、一緒に連行された甥だけでも頑張って生きていてほしい」

これは、ある女性が息子の結婚式で述べた言葉だ。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、管理所に送られた叔父を持つ男性と、脱北して韓国または第三国に住む家族を持つ女性との結婚式で、新郎の母親が言葉をつまらせながら弟家族への思いを語ったのだ。

この女性は、弟家族が連行されてからというもの、心痛でほとんど押し黙ったまま生きてきた。南北首脳会談がきっかけとなって、もしかしたら朝鮮半島が統一されるかもしれない、そうなれば弟家族が釈放されるかもしれないという希望を抱き、普段はとても口に出せない本音を語ったのだ。

(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

脱北者の多い中朝国境沿いの地域でも、南北首脳会談への期待が高まっていると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の内部情報筋が伝えた。

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茂山(ムサン)のある村は、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころに村人がすべて脱北してしまい廃村同然の状態となったが、その後は空き家になった家に多くの人が引っ越してきた。

そんな村人の中には「統一されれば、元々住んでいた人が帰ってきて土地と家を返せと言い出すかもしれない、どうしよう」と心配する人もいるが、ほとんどの人は「杞憂」だと一笑に付す。

「中国(実際は韓国)に行って良い暮らしをしている人たちは、こんなボロ屋になんかに目もくれないだろう」(情報筋)

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一方で家族に脱北者を持つ人々もその隣人も喜びを隠しきれないようだ。

「大きい声では言えないが、南北首脳会談への期待は大きい」(情報筋)

保衛部は脱北者家族を厳しい監視のもとに置くだけにとどまらず、半ば脅迫して、韓国に住む家族に仕送りさせたカネを奪っている。

(参考記事:「送れど送れど減るばかり」脱北者からの送金にタカる北朝鮮秘密警察

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また、保衛部は脱北者を強制的に帰国させるため、家族を巻き込んで様々な謀略を巡らせている。そんな不安な暮らしから抜け出せるという期待を持っているのだ。

(参考記事:美人タレントを「全身ギプス」で固めて連れ去った金正恩氏の目的

人々は「今期待するのではなく、多くのことが成し遂げられてから喜ぼう」と言ってぬか喜びにならないように戒めつつも、それを聞いた隣人とともにウキウキしていると、情報筋は伝えた。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記