河野太郎外相は11日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領、康京和(カン・ギョンファ)外相と相次いで会談し、27日に予定されている南北首脳会談で日本人の拉致問題を取り上げることも要請したが、韓国側から明確な回答は得られなかった。

その場で拉致問題に言及すれば、会談の場が紛糾しかねないことを考えると韓国が拉致問題を取り上げる公算は低いと言えよう。そればかりではない。文在寅政権は、内なる拉致問題と言うべき「国軍捕虜」の問題の解決にも及び腰だ。

国軍捕虜とは、朝鮮戦争に韓国軍将兵として参戦し、北朝鮮に捕虜として捕らえられた人々のことを指す。韓国国防省はその数を約8万2000人と推測しているが、北朝鮮が送還したのはその1割強に過ぎない。残りの人々とその家族は、北朝鮮で成分(身分)が悪いとされ、炭鉱などでの重労働に苦しめられてきたと伝えられている。北朝鮮を脱出できたのは80人、未だに北朝鮮にいる人は540人(韓国政府調べ)だ。

文在寅大統領は昨年の大統領選挙の公約として「国軍捕虜と(韓国人の)拉致被害者の送還、解決策の提示」を掲げ、昨年9月の国軍の日の行事に元国軍捕虜8人を招待し、国軍捕虜の帰還と韓国再定住に必要な措置を行うと伝えた。

文大統領は昨年12月の中韓首脳会談で、在中国の韓国大使館および領事館にいる脱北者の安全な出国を求め、その後に中国に滞在していた国軍捕虜を含む2人の脱北者が韓国に入国した。また、韓国にやってきた元国軍捕虜とその家族に対して特別支援を行っているが、それ以外の動きは見せていない。

(参考記事:中国が脱北者問題で異例の措置、北朝鮮に打撃も

朝鮮戦争に参戦し北朝鮮で捕虜となり47年後の2000年に韓国に戻り帰還国軍勇士会の会長を務めたユ・ヨンボク氏は、米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)のインタビューに答え、韓国政府に国軍捕虜の送還に積極的になって欲しいと訴えた。

米国は戦死者の遺骨を発掘し帰還させる努力を行うが、韓国は国軍捕虜も、脱北し中国で息を殺して暮らしている脱北者を韓国に連れてくる意思もなければ、積極的に乗り出そうとする人がいないと、文在寅政権を批判した。

ユ氏は2011年にデイリーNKと行ったインタビューでも、2000年の南北首脳会談で金大中大統領(当時)が国軍捕虜の問題に言及しなかったことについて次のように不満を示している。

「金大統領が『もういい加減に韓国軍捕虜を返還せよ』と言うと思っていたが、彼はそのような話は全くしなかった。韓国のために戦って囚われの身となった人々に、なぜ何も言わないのか」

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また、勿忘草財団のパク・ソニョン理事長は、北朝鮮が国軍捕虜と拉致被害者を送還しないのは国際法違反だと述べ、戦争犯罪には時効がない、問題が続く限りわれわれには解決する義務があるとして、文在寅政権に対応を求めた。

米下院は2011年、北朝鮮に対して朝鮮戦争の捕虜、行方不明者、拉致被害者の送還を求める決議案を採択した。また、韓国の国会は朴槿恵政権時代の2013年に、国軍捕虜の早急な送還を求める決議案を採択した。

文在寅政権は、北朝鮮の非核化と南北関係の改善のため、国軍捕虜も拉致被害者を含む北朝鮮の人権問題についての言及を避けている。「小の虫を殺して大の虫を助ける」ということなのだろうか。

一方の北朝鮮は国軍捕虜の問題の存在を公式には認めていないが、南北の会談の場で援助物資を引き出すカードとして利用していた。

(参考記事:韓国軍捕虜4人をちらつかせ援助を引き出す北朝鮮