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「握手してもらえるとは思いませんでした。本当に光栄でした」

今月1日と3日に北朝鮮・平壌で行われた芸術公演に参加し、金正恩党委員長と会った韓国のアイドル歌手がインタビューでこのように語り、一部で物議を醸した。現在、韓国と北朝鮮の間で対話が進行中であっても、金正恩氏が最悪の人権侵害の責任者である事実を忘れてはならない、ということだ。

「喜び組」女優も犠牲に

実際、本来なら韓国の芸能人との合同公演に参加し、あるいは歓迎宴で交流を深めてもおかしくなかった北朝鮮の芸能人たちが、10人以上も金正恩氏の手で葬られているのだ。

北朝鮮きっての「イケメン俳優」と言われたチェ・ウンチョル氏もそのひとりである。

チェ・ウンチョルは1980〜90年代にかけて、北朝鮮の映画界で活躍した。脱北者で平壌中枢の人事情報に精通する李潤傑(イ・ユンゴル)北朝鮮戦略情報センター代表によると、「北朝鮮的な美男子」であったチェ・ウンチョル氏は、演技力以外にも多才なところを見せつけ、女性たちから爆発的な人気を集めた。

(参考記事:【写真】北朝鮮の「イケメン俳優」チェ・ウンチョル

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そのまま銀幕のスターであり続けていれば、彼は俳優として幸せな人生を送れたかもしれない。しかし、金正恩氏の叔父である張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長の縁戚となったことで、彼の運命は大きく変わってしまった。

一時は北朝鮮で「実力ナンバーワン」と言われた張氏の威光を背景に、様々な利権事業に介入して巨額のカネを手にしたのだ。そこまでは良かったものの、2013年12月に張氏が処刑されると、「張成沢一派」と見なされともに葬られてしまったのだ。

そのようにして消された芸能人は、彼ひとりではない。一時は北朝鮮の銀幕スターだった女優キム・ヘギョンも、同様の運命を辿った。

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キム・ヘギョンの生い立ちは詳らかでないが前出の李代表によると、彼女の元々の所属先は朝鮮労働党中央の組織指導部5課、つまりは「喜び組」だったという。

(参考記事:【写真】女優 キム・ヘギョン――その非業の生涯

金正恩氏は、母親の高ヨンヒ氏が舞踊家出身で、妻の李雪主(リ・ソルチュ)氏は元歌手だ。芸能関係者とは縁の深い身でありながら、だからといって特段の情けをかけるわけではないようだ。

(参考記事:金正恩氏は父が愛した「天才ヴァイオリニスト」を容赦なく殺した

そのことを知ってもなお、韓国の芸能人たちは、金正恩氏との握手を「光栄だ」と感じられるだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記