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北朝鮮で来月11日、最高人民会議(国会)が開かれる。すべての議題に687人の代議員全員が賛成するいわゆる「シャンシャン大会」だが、彼らを選ぶ選挙も極めて形式的なものに過ぎない。

投票は、候補者の名前がスタンプで押された投票用紙を投票箱に入れるだけだ。反対票を投じるなら用紙にバツ印を書いて投票するが、そんなことをしたらどうなるかは火を見るより明らかだ。

(参考記事:北朝鮮の「公開処刑」はこうして行われる

選挙期間になると、町のあちこちに貼り出されるのは候補者のポスターではなく、「全員が賛成投票しよう!」という、民主主義国の常識からすると奇異なものだ。

そんな北朝鮮の選挙が、一部で変わりつつある。町内会長にあたる人民班長を選ぶ際に、ある程度まで民意が反映されるようになったのだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、清津(チョンジン)市の水南(スナム)、松坪(ソンピョン)、羅南(ラナム)の各区域で、人民班長を選ぶ「推薦事業」が行われた。

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かつては、洞事務所(末端の行政機関)や地域の核心幹部が推薦した人が自動的に人民班長になるものだったが、最近は変わりつつある。幹部のコネを使って人民班長に推薦してもらおうとしても、人民班の住民が反対すれば推薦がなかったことにされるという。

例えば、羅南区域のある地域では、区域の労働党委員会が推薦した幹部の妻が人民班長に指名されたが、住民が強く抗議したため、結局は別の人になった。

地域住民は幹部の妻の顔に泥を塗った形となったが、その理由は次のようなものだ。

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「人民班長は住民の生活のケアをしなければならないのに、ワイロ漬けの幹部の家族が一般庶民の心情などわかるわけがない」(情報筋)

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋も、現地で同様の事態が起きていると伝えた。昨年秋に洞事務所が推薦した人民班長の候補が住民の反対に遭って辞退に追い込まれた。後任として人民班長に選ばれたのは、住民が推薦した女性だった。数年前までお上が決めた人事に従うしかなかったが、今では住民の意見を多く取り入れるようになったとのことだ。

党幹部の選抜にも住民の意見が反映されるようになっている。自分に対する評価が高まるよう、住民の暮らしに気を使う党幹部も現れた。学校でも、クラスの級長を選ぶ際には、生徒の推薦を受けてから選ぶようになった。それ以前は、親の社会的地位や経済状況によって学校側が選んでいた。

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一連の変化は、国家保衛省のトップだった金元弘(キム・ウォノン)氏が粛清されて以降に顕著になった。金正恩党委員長は「幹部がうわべだけで事業に取り組むやり方をなくし、徹底して人民大衆の中に根を下ろせ」という指示を下し、関連する学習会が行われたという。

最近の変化を受けて住民の間からは「わが国は『朝鮮民主主義人民共和国』なのだから、もっと前からこうすべきだったのではないか」という声が上がると共に、「最高人民会議の代議員選挙と比べると大したことはないが、人民班長の選出に住民の意見が反映されるのは良いことだ」と肯定的な声も上がっている。

しかし、このような変化を見て、北朝鮮の民主化が始まったと考えるのは早計だ。

中国やベトナムでは、1選挙区に複数の候補が立候補する形の選挙が行われるようになっているが、立候補には共産党などの推薦が必要で、被選挙権が認められているとは言い難い。民意を汲み取るフリをして、選挙を「ガス抜き」に活用しているに過ぎない。

最高指導者に反対を唱えることは「死」を意味する北朝鮮において、「選挙改革」が行われたとしても、中国やベトナムのレベルを超えることはないだろう。