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北朝鮮が、5月に予定されている米朝首脳会談に向け、人権問題に神経をとがらせている。

朝鮮労働党機関紙・労働新聞は最近、「帝国主義者の『人権』騒動を粉砕すべきだ」(13日付)、「米国は世界最悪の人権蹂躙国、人権抹殺国」(15日付)などと題した論評を相次いで掲載。16日付の論説「帝国主義者の支配権拡張策動に警戒心を高めるべきだ」の中でも、「(帝国主義者は)荒唐無稽な『人権』騒動を起こし、支配主義戦略実現の口実にしている」と述べている。

米トランプ政権は米朝首脳会談の話が電撃的に浮上する直前、大統領と副大統領が相次いで脱北者と面談するなどして、北朝鮮圧迫のための「人権シフト」に動いていた。たとえばトランプ氏は、中朝国境での北朝鮮女性の人身売買を「やめさせる」とまで言っている。

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それだけに、「首脳会談で人権問題を持ち出されるのではないか」と、金正恩党委員長が神経質になっていたとしても不思議ではない。

そもそも、金正恩氏が祖父や父以上に核兵器開発に突っ走った理由は、人権問題にある。

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北朝鮮と米国は、過去にも核問題を巡る話し合いを行ってきた。まとまらなかったのは、根深い相互不信のためだ。その「不信」の中身も様々あるが、北朝鮮側にとっては、人権問題もそのひとつだった。

「安全保障問題で妥結して、いったんは緊張が収まっても、米国はいずれ人権問題を口実に体制崩壊を仕掛けてくるかもしれない」

金正日・正恩親子は、このような恐怖心に取りつかれているが故に、核をあきらめることができなかったのだ。それほどに、人権問題は金正恩体制にとって、重い足かせになっているのである。

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「では、北朝鮮は人権問題でも改善を図れば良いではないか」

読者の中には、このように考える向きもいるだろうが、これが北朝鮮にとっては途方もなく難しい問題なのだ。なぜなら、公開処刑のような人権侵害なくして恐怖政治は成り立たず、恐怖政治なくして、体制の維持は不可能だからだ。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

だから、仮にトランプ氏が首脳会談で人権問題に触れたら、その場で決裂もあり得るのだ。だから金正恩氏は、国内メディアを通じて「その話だけはしないで」と、米国にシグナルを送っているのである。

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以下、金正恩氏が手を染めた「人道に対する罪」についてまとめた。

「喜び組」出身女優はいかにして堕落し、金正恩に抹殺されたか

「喜び組」だった

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)党委員長はトランプ米大統領に早期の会談を要請し、トランプ氏は5月までに会談すると応じた。実現すれば現職の米朝首脳の会談は初となる。訪米した韓国青瓦台(大統領府)の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長から伝えられた金正恩氏からのメッセージを受け、サンダース米大統領報道官は8日に声明を発表し、「トランプ氏は金正恩氏との会談の招待を受け入れる。会談の場所と時間は今後決める」と表明した。

しかしこの展開は、金正恩氏が手を染めてきた数々の残忍な人権侵害に、ある種の免罪符を与えることにつながらないだろうか。

北朝鮮の金正恩党委員長は2013年12月、叔父にあたる張成沢(チャン・ソンテク)国防副委員長を処刑し、世界に衝撃を与えた。それに続き、張氏の家族、親戚、部下など多くの人々が粛清されたと伝えられている。

その中に、一時は北朝鮮の銀幕スターだった女優キム・ヘギョンがいる。

キム・ヘギョンの生い立ちは詳らかでないが、脱北者で平壌中枢の人事情報に精通する李潤傑(イ・ユンゴル)北朝鮮戦略情報センター代表によると、彼女の元々の所属先は朝鮮労働党中央の組織指導部5課、つまりは「喜び組」だったという。

「喜び組」として注目の的

1997年頃、北朝鮮映画界でスターとなった彼女は、20代後半から30代前半のとき、護衛司令部の幹部を父に持つ貿易会社の社長と結婚し、2人の息子をもうけた。美貌と知性、演技力、人気に加え、権力まで手にした彼女は、徐々に堕落してゆく。

(参考記事:【写真】女優 キム・ヘギョン――その非業の生涯

最高指導者に仕える奉仕員、喜び組のメンバーとして教育を受けた彼女は、高級幹部の間でも注目の的となった。夫や子どもを顧みず、朝鮮労働党作戦部所属の連絡所長(工作員の指揮官)など数多くの幹部と浮名を流した。浮気相手と、同棲したことすらあったようだ。

(参考記事:将軍様の特別な遊戯「喜び組」の実態を徹底解剖

そんな彼女に最初の危機が訪れた。夫が麻薬を使用した容疑で当局に摘発されたのだ。彼女は職場から追われた夫と離婚し、強力なバックを失ってしまった。その頃に出会ったのが、張成沢だった。

2人が深い関係となるのに、時間はかからなかった。しかしそれも、張成沢の処刑というあまりに衝撃的な出来事で幕が降ろされた。かつては北朝鮮の権力中枢でも「実力ナンバーワン」と言われた愛人の威光を背景に、違法な蓄財に励んでいた彼女は、自らの身に迫りくる危機を察知し、張成沢が処刑された直後の2013年12月中旬、朝鮮労働党の組織指導部に自首して5万ドルを当局に差し出した。全財産を差し出すことで、命乞いをしようとしたのだろう。しかし、それは組織指導部が調査を通じて見積もっていた彼女の隠し財産と比べ、あまりに少なすぎる額だった。

家宅捜索に踏み切った組織指導部は、4〜50万ドルの現金と、相当量の金(ゴールド)を発見した。しかもそれらは、財産を隠匿する目的で作られた特注の冷蔵庫の中にあった。そればかりではない。彼女には、現金やマンション4戸を含むさらなる隠し資産があったのだ。

組織指導部は、彼女に対して加重処罰の処分を下し、隠し子と共に政治犯収容所送りにした。しかも彼女が送られたのは、「この世の地獄」とも言われる、一生釈放されることのない「完全統制区域」だった。ただし、前夫との間に生まれた2人の息子は今でも平壌で暮らしていることが確認されている。

ただ、北朝鮮のサイトに彼女が出演した映画が残されていることを考えると、女優キム・ヘギョンは完全に消し去られた存在ではないようだ。

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衛星情報でつかまれた金正恩氏「公開処刑」の実行現場

北朝鮮の金正恩党委員長とトランプ米大統領による米朝首脳会談の行方が注目されているが、仮にこれがうまく行き、北朝鮮が非核化に取り組むことになっても、それだけで正恩氏が国際社会から大歓迎されるようになるわけではない。

国連は昨年まで13年連続で、北朝鮮による人権侵害を非難し、解決を求める決議案を採択している。その過程で、金正恩氏が「人道に対する罪」に問われる可能性も言及された。

「人道に対する罪」について、辞書は次のように説明している。「戦前または戦時中一切の一般人民に対して為された殺戮,殲滅,奴隷的虐使,追放その他の非人道的行為,または政治的,人種的もしくは宗教的理由に基づく迫害行為」(コトバンク)。

このような罪を問われるのは、たとえばどのような人物だろうか。連想される名前はアドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリン、ポル・ポトあたりだろうか。記憶に新しいところではスロボダン・ミロシェビッチ。いずれの人物も、「残酷な独裁者」と名高い。

北朝鮮では、権力による国民に対する虐殺が繰り返し行われてきた。実際のところ、そのほとんどは金正恩氏の祖父(金日成主席)と父親(金正日総書記)によって行われたものだ。

金正恩氏が父親から独裁権力を受け継いだ時は、彼はまだこのような犯罪に手を染めていなかったはずだから、この悪しき歴史を終わらせる絶好のチャンスだったと言える。

しかし、今となってはもはや手遅れだ。きわめて残忍な方法で行われる公開処刑は、金正恩体制になってからも続いており、中にはその現場が、衛星画像で確認された例もある。

米国のNGO、北朝鮮人権委員会(HRNK)のグレッグ・スカラチュー事務総長と商業衛星写真分析を行うASA(AllSource Analysis)のジョセップ・バミューデス博士によると、2014年10月7日、平壌郊外にある姜健(カン・ゴン)総合軍官学校で普段と違う様子が観察された。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

衛星画像では、広場に何らかの物体10個が一列に並べられている様子が観察された。それに向かって6門のZPU-4対空機銃(北朝鮮で言う高射銃)が並べられていて、その後ろには、射撃の様子を観察するためと見られる場所が設けられている。

(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…

アジアプレスは同年10月、北朝鮮の内部情報に基づき10人の朝鮮労働党幹部が同軍官学校で処刑されたと報じており、HRNKの分析と時期的に符合するのだ。

姜健総合軍官学校は幹部の処刑に頻繁に使われており、金正恩氏の夫人である李雪主氏が所属していた銀河水管弦楽団の元メンバーの処刑にも使われたとされる。

(参考記事:金正恩氏「美貌の妻」の「異性問題」で殺された北朝鮮の芸術家たち

北朝鮮で行われている「人道に対する罪」は、もはや噂や単なる情報の域を脱し、具体的な容疑となってきているのだ。北朝鮮の非核化を優先するため、国際社会が目を逸らすには、あまりに生々しい現実として存在しているのである。

予告なしの放水で押し流された北朝鮮の被災者たち…金正恩氏の冷酷非情

北朝鮮では毎年水害による被害が起きているが、2016年8月末に北朝鮮北東部を襲った台風10号(ライオンロック)は、例年以上に甚大な水害被害をもたらした。

北朝鮮当局は「解放後初の大災難(建国以来の災害)」としながら、被災者数を「6万8900人」と公式にアナウンス。しかし、その後の韓国の民間シンクタンクや国際赤十字が把握した情報から、実際にはその4倍以上、30万人にも上ることが判明。さらに、被害拡大の裏には犯罪的ともいえる「人災」が隠されており、当局はそれを隠蔽しようとしていたことが明らかになる。

もともと北朝鮮は、大事故や災害が起こった際、国の体面を守るため、そして安全対策の不備を国内外から非難されないよう被害規模を隠蔽する悪弊がある。過去にも、橋梁の建設現場で500人が一度に死亡する地獄絵図のような大惨事が起きたにもかかわらず、事故の詳細は一切明らかにされなかった。

(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮の橋崩落事故、500人死亡の阿鼻叫喚…人民を死に追いやる「鶴の一声」

しかし、デイリーNKや米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の内部情報筋によると、水害だけでなく復旧現場でも安全対策を無視した作業による事故が多発し多くの命が奪われた。山崩れや土砂に流されるなどの事故で、9月12日から29日までの間に100人以上が死亡したという。被害はその後も増えた可能性が高い。そもそも水害被害を拡大させたのは北朝鮮当局の「ある指示」によるものだという指摘もある。

水害が起きて間もない頃、デイリーNKの内部情報筋が伝えてきた情報によると、中央の指示によって西頭水(ソドゥス)発電所に流す水を貯めている両江道(リャンガンド)大紅湍(テホンダン)郡の円峰(ウォンボン)貯水池と、咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)郡を流れる城川水(ソンチョンス)の上流にある馬養(マヤン)貯水池の水門が予告もせずに開かれたという。放流された理由は、発電設備の崩壊を避けるためだった。これにより、茂山、会寧(フェリョン)、穏城(オンソン)など流域の町が次々に濁流に飲み込まれた。

「60あまりの村が跡形もなく消え去り、国境警備隊の哨所(監視塔)、兵舎、軍官(将校)用の住宅もあらかた押し流された」(情報筋)。北朝鮮当局は人命より既存設備を守ることを優先したのだ。こうした人命軽視の姿勢に対して一部の住民からは怨嗟の声が出ているが、当然のことだろう。

(参考記事:「あんた達のせいで皆死んだ」住民見殺しで金正恩体制の権威失墜

それでも「北部地域被害復旧戦闘」は進み、11月はじめには会寧市に1800戸、茂山郡には1500戸、延社(ヨンサ)郡には500戸の住宅が建てられたが、ここでも新たな問題が起きる。北朝鮮当局は出身成分が良い被災者に優先的に住宅を割り当てたのだ。

「出身成分」とは、「親の職業は何であるか」「過去、身内に反体制分子はいなかったか」など、出自や家庭環境をもとに国民を上から「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」の3階層に分け、それをさらに50前後のカテゴリーに細分化したものだ。北朝鮮国民はそのうちのどこに属するかによって居住地、職業、食料の入手、公共サービスにおいて大きな差をつけられてきたが、今回も同様のことが起きた。

核心階層には、好条件の被災住宅が割り当てられる一方、それ以外の被災者、例えば家族に脱北者がいる被災者は後回しにされたうえで、ハーモニカ住宅(1棟に4戸が入る長屋)や、マンションの最上階を割り当てられた。最上階というと聞こえはいいが、実は電力事情の悪い北朝鮮では最も条件が悪い。金正恩氏の肝いりで建てられたマンションにおいても、信じられない方法で「トイレ(汚物)問題」を解決する住民がいるほどだ。

(参考記事:空から汚物が…「金正恩住宅」のトイレ問題が深刻

なによりも金正恩党委員長は、「解放後初の大災難」が起きていたにもかかわらず、第5次核実験を強行し中距離弾道ミサイル「ムスダン」の試射を行っていた。災害の裏に隠された人災に加えて、その後の対処不手際による二次災害。さらに、復旧事業における差別的施策など、何から何まで国民の生命と安全を軽視し、人権を無視するのが金正恩体制の本質なのだ。

金正恩氏の美人妻「元カレ写真」を回し見したら処刑される

北朝鮮にはかつて、銀河水(ウナス)管弦楽団という音楽グループがあった。金正恩党委員長の妻・李雪主(リ・ソルチュ)氏がかつて所属していた楽団だ。金正日総書記によって2009年に創設された同楽団は、精力的に公演活動を行っていたが、2013年に突如として解散させられる。

そして同年8月、日本と韓国のメディアは、ポチョンボ電子楽団の元人気歌手でありモランボン楽団の団長である玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏が処刑されたと報じた。これは誤報だったが、銀河水管弦楽団などの有名芸術団メンバーが公開処刑されたのは事実とされている。

脱北者で韓国紙・東亜日報の名物記者でもあるチュ・ソンハ氏が昨年8月31日、自身のブログで興味深い記事を公開した。

ソルチュ氏が正恩氏のパートナーとして選ばれた際、彼女が所属していた銀河水(ウナス)管弦楽団の同僚や友人ら数人が、ソルチュ氏に「元カレ」がいたことを示す「証拠写真」を回し見した。これが、北朝鮮当局の知る所となり、公開処刑にまで発展したというのだ。

(参考記事:金正恩氏「美貌の妻」の「元カレ写真」で殺された北朝鮮の芸術家たち

ただ、この銃殺事件を巡っては、これとは大きく異なるストーリーが伝えられてもいる。芸術団メンバーらが処刑された主な理由は、自分たちどうしでポルノを撮影していたことがバレたからだというものだ。

こちらの説も、なかなか詳細な話が出てきており、まったくの作り話だとも思えない。

(参考記事:美貌の女性らが主導…北朝鮮芸術家「ポルノ撮影」事件の真相

いずれにしても、ポルノを撮ろうが彼氏と写真を撮ろうが、そんなことは、人間が殺される理由になどなり得ない。

しかも、芸術団メンバーらはきわめて残忍な方法で殺され、当局はその様子を、射撃場に集めた芸術関係者数千人に見せつけた。前列で見ることを強要された女性歌手らの中に、失禁しなかった者はいなかったという。

金正恩氏の父である故金正日総書記もまた、自らの乱れた女性関係を隠すため手を血に染めている。北朝鮮の独裁者たちは、このような蛮行を当たり前のように働いてきたのだ。

たしかに、南北首脳会談や米朝首脳会談が成功し、朝鮮半島の非核化が進むのは望むべきところだが、それは決して、北朝鮮の人々の人権問題を置き去りにする形で実現してはならない。

(参考記事:金正日の女性関係、数知れぬ犠牲者たち

やはりどう考えても、金王朝に人間社会を治める資格などないのだ。

(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

トランプ大統領は金正恩氏の「10万人抹殺」を止められるのか

米下院のジェリー・コノリー議員(民主党)とマイク・コナウェイ議員(共和党)は6日、北朝鮮の政治犯収容所撤廃を求める決議案を提出した。5月に予定されている金正恩党委員長とトランプ大統領との米朝首脳会談の行方が注目されている今、まさに時宜に適した動きと言える。

政治犯収容所は、北朝鮮の恐怖政治の象徴だ。

かつて、政治犯収容所に警備隊員として勤務し、その恐怖の実態を告発し続けている脱北者・安明哲氏によれば、「そこでは人間が想像しうる、ありとあらゆる残酷なことが行われていた」という。まさに、実在する「地獄の一丁目」である。

(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「人権侵害」の実態

国連の北朝鮮人権調査委員会(COI)が2014年2月に発表した最終報告書によれば、北朝鮮には4カ所の政治犯収容所がある。また、教化所に転用されたとの説がある施設がもうひとつあり、8万人から12万人の政治犯が収容されていると見られている。

実は1990年代には、北朝鮮には10カ所以上の政治犯収容所の存在が指摘されていた。また、収容者の数も20万人以上とされていた。とくに、1993年のフルンゼ軍事大学同窓会によるクーデター未遂や、1995年の6軍団クーデター未遂が「血の粛清」に遭った際には、その容疑者の一族郎党が連日千人単位で送られ、収容者が大きく増えたという。

(参考記事:同窓会を襲った「血の粛清」…北朝鮮の「フルンゼ軍事大学留学組」事件

それが今や、施設の数は4~5カ所に減り、収容者も半減したのだから、「多少なりとも改善しているのではないか。金正恩党委員長は、収容所を縮小していくのではないか」と思えるかもしれない。

しかし、それは違う。政治犯収容所が減っているのは、単に運営の効率化のために過ぎない。それぞれの施設は大規模化し、拡張されている。また、収容者数が減ったのは、1990年代の大飢饉に際し、何の救済もされず、飢え死ぬままに捨て置かれたからだ。

安氏によれば、北朝鮮当局は「国際社会の圧力などの理由から国内で合理化を図ったもので、残った管理所を拡大する方針を取っている」のだという。

また、過去には収容者が釈放される例もあったのが、最近では例外なく「無期刑」とされているそうだ。元収容者が脱北し、管理所での残虐行為が国際社会に告発されるのを防ぐためだ。

そうした実態にも増して、安氏の話で衝撃的だったのは、「仮にいまの体制がもたないと北朝鮮の指導部が判断したら、証拠隠滅のため、収容者を皆殺しにするだろう。私もそのように教えられた」との説明だ。いま、金正恩氏は対話に舵を切っているが、国際社会との融和を進める上で、政治犯たちの存在は足手まといになりかねない。

忘れてならないのは、北朝鮮が国際社会による経済制裁を耐え抜き、核武装を達成してしまったのは、この国に民主主義がまったく存在しないからであるということだ。国民が、政策に対して少しでも不平を言える国であれば、国家の暴走には少なからずブレーキがかかる。

(参考記事:北朝鮮、脱北者拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

それを不可能にしているのが、まさに恐怖政治の象徴たる政治犯収容所なのだ。トランプ大統領が北朝鮮の非核化を真に望むなら、決してこの現実を素通りしてはならない。

金正恩氏が「部下をミンチ」にしてきた事実は、どんな対話でも消せない

2015年春、当時、北朝鮮の玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長(国防相)が突如として銃殺された事件は、世界に衝撃を与えた。公開銃殺が当たり前に行われている北朝鮮においても、彼ほどの高官が殺されるのは、そうあることではない。

韓国の国家情報院が国会に報告したところによれば、銃殺には「高射銃」が用いられたという。

「高射銃」とは対空火器の一種で、北朝鮮では14.5mm口径の重機関銃4丁をひとつにまとめた「ZPU-4」が使用されている。14.5mm口径の銃弾は威力が大きく、通常は人間に対してよりも、軽装甲の車両やコンクリート塀などの遮蔽物を貫通・破壊するのに用いられる。

事情通によれば、「1発でも当たれば、人体の一部が吹き飛ぶ。発射速度の速い機関銃で連射されたら、人体は粉々になり原形をとどめない」という。文字通り、人体が「ミンチ」になってしまうのである。

(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…

北朝鮮の公開銃殺では従来、自動小銃AK47が用いられてきた。こちらの口径は高射銃の半分ほどの7.62ミリだが、それでも十分に強力である。金正恩氏の夫人・李雪主(リ・ソルチュ)氏のスキャンダルにからみ、芸術団メンバーらが処刑された際には、これで銃殺された犠牲者たちの亡骸を前に、「見物」させられた元同僚らは文字通り卒倒したという。

(参考記事:金正恩氏「美貌の妻」の「元カレ写真」で殺された北朝鮮の芸術家たち

公開銃殺の方法が、これに輪をかけて残忍な「高射銃」使用に移行したのは、金正恩氏が最高指導者となってからだ。玄永哲氏だけでなく、朝鮮労働党幹部だった李龍河(リ・リョンハ)、張秀吉(チャン・スギル)の両氏もこれで殺された。前述とは別の芸術団元メンバーらが同じように処刑された際には、その現場が衛星画像にとらえられている。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

北朝鮮における死刑が問題視されている大きな理由は(死刑制度の是非は別として)、死刑囚が果たして公正に裁かれた結果なのか、適正な裁判は行われたのか、という疑問が絶えない点にある。玄永哲氏などは「金正恩氏に口ごたえしただけで殺された」などとする情報すらある。

それに加えて、この残忍な処刑方法である。いかなる場合にも、人間の尊厳は重視されるべきだし、それを故意に傷つけ、さらにその様子を人々に見せつけることで「恐怖による支配」を目指すなどということは、とうてい許されるべきものではない。

今後、金正恩体制と日米韓が対話する機会は増えてくるのかもしれないが、相手の体制がどのように維持されているのかを、決して忘れてはならない。

(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

トランプ氏は北朝鮮の「女性虐待収容所」をどうするのか

2005年から2016年までの間に許可なく国境を越えた後、海外から送還された女性は6473人。そのうち、送還後に処罰されたのは33人に過ぎない――。

北朝鮮昨年の夏、国連女性差別撤廃委員会に提出した答弁書で、このように主張している。北朝鮮が、このように脱北者の数字に言及することは極めて異例だ。

この動きについて報じた米政府系のボイス・オブ・アメリカによれば、北朝鮮は答弁書で、こうした女性のほとんどは経済的な困難から越境したり、人身売買組織に騙されたりした人々であるとして、帰国後はいかなる処罰も受けておらず、現在は安定した生活を送っていると説明。また、処罰された33人は、海外滞在中に殺人未遂や麻薬取引など重大犯罪に関わった者たちだと述べているという。

たしかに、脱北した女性の大部分は、経済的な困難や人身売買被害により越境した人々だ。何ら法的な保護を受けられない中、潜伏先の中国で人権侵害に遭っている人も多い。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

ただ、「帰国後はいかなる処罰も受けていない」との説明は、数多くの脱北女性が行った証言と大きく食い違っている。

たとえば、現在は韓国に暮らす脱北女性のキム・チャンミさんは2007年、いったんは中国へ逃れたものの北朝鮮に強制送還され、刑事犯として刑務所に送られ、激しい人権侵害を受けた。

(参考記事:刑務所の幹部に強姦され、中絶手術を受けさせられた北朝鮮女性の証言

また、米国の人権団体「北朝鮮人権委員会」(HRNK)のグレッグ・スカラチュー事務総長は、中朝国境地域の咸鏡北道(ハムギョンブクト)にある全巨里(チョンゴリ)教化所の過去数十年に渡る衛星写真を分析。その結果、「女性虐待収容所」とでも呼ぶべき施設が拡張された事実を突き止めている。

北朝鮮の拘禁施設は、強制労働、拷問、劣悪な環境で、国際社会の激しい批判を浴びている。とりわけ、女性虐待が日常化している実態は、元収容者や関係者の告発により明らかになっている。

(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

スカラチュー氏によると、全巨里教化所は1980年から1983年の間に開設された。そして、女性収容施設を拡張したのは2009年2月と8月である。収容者数は1990年代末には約1300人だったのが、今では5000人まで増加し、うち1000人が女性だという。

韓国の文在寅大統領と米国のトランプ大統領は、それぞれ4月末と5月に北朝鮮の金正恩氏との首脳会談を控えている。これは、上述したような非人道的な施設に囚われた女性らに救いの手を差し伸べるための、絶好の機会と言えないだろうか。

とりわけトランプ氏は2月2日、ホワイトハウスのオーバルオフィス(執務室)に脱北者6人を招き、北朝鮮の人権状況や脱北の実態について意見交換した際、「北朝鮮の残酷な人権状況についてよく理解している」と明言。続けて「特に韓国に定着した脱北女性の大部分が人身売買の被害者だというが、この21世紀に考えられないことだ」として、中国政府に人身売買の根絶を強力に要求すると述べたという。

これは、脱北に失敗した女性たちの置かれた現状についても、トランプ氏は知っているということだ。

朝鮮半島の非核化はたしかに大事だが、その取り組みが少し遅れたからと言って、北朝鮮の核兵器が誰かを殺す可能性は大して大きくない。しかし、この女性たちのうちのある部分は、確実に犠牲になる。

そのことを後になって知り、後悔するようなことは、絶対にあってはならない。

(参考記事:17歳で中国人男性に売られ…脱北女性「まだまだ幼い被害者が大勢いる」

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記