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韓国のMBCテレビの調査報道番組「PD手帳」は6日の放送で、カンヌ、ベルリン、ベネチアの世界三大映画祭で賞を勝ち取った世界的な映画監督、キム・ギドク氏と、彼の作品に何度も出演している俳優のチョ・ジェヒョン氏が、多数の女優をレイプしていたという衝撃的な疑惑を報じた。

また、JTBCテレビの5日のニュース番組に、次期大統領候補と目されていた忠清南道の安熙正(アン・ヒジョン)知事の秘書のキム・ジウンさんが出演し、知事から性的暴行を受けていたことを告発した。

このように韓国では、女性たちが自らの体験した性暴力の被害を告発する「#MeToo」ムーブメントが続いているが、その流れは軍事境界線の向こうの北朝鮮にまでは届いていない。

北朝鮮の女性たちは、強姦、暴行、セクハラなど様々な性暴力にさらされている。特に労働鍛錬隊(軽犯罪者を収監する刑務所)、教化所(刑務所)、政治犯収容所における性暴力は想像を絶するレベルだ。

(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

北朝鮮の刑法には強姦罪(第279条)と暴行罪(275条)が存在し、女性の権利保障法第46条は、ドメスティック・バイオレンスを禁じると同時に、被害女性の保護も義務付けている。

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しかし、このような法は機能していない。法を執行する立場の官僚がむしろ法を破っていることが一因だ。例えば、「望みの職場に配属してやる」「労働党に入党させてやる」と誘い出し、性上納を強いることは日常茶飯事だ。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

原因はそれだけではない。性やジェンダーについての教育が行われていないのだ。平安南道(ピョンアンナムド)出身のホンさんは語る。

「女子生徒向けの実習時間では、生理に関する教育しか行われなかった」
「村の宴会で、大人が13歳の女の子の大きな胸を揉む光景を目撃した。両親はそれを見ていたが、特に問題視することはなかった。性暴力の意識が低い」

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性について語るどころか、むしろ隠蔽しようとする社会風土も問題だ。例えば、職場の同僚間で性暴力が行われると、被害者があらぬ噂に苦しめられ、責められることが多いという。両親にも告げられず、保安署(警察署)に通報もできず、被害者がひとりで苦しむしかないのだ。

そもそも、北朝鮮には「性暴力」「性暴行」という言葉すら存在しない。スキャンダルという意味合いの「浮華事件」と呼ばれるだけだ。強姦以外は法的、社会的な責任が問われないばかりか、「浮華事件で社会主義的公序良俗を見出した」との理由で、被害者が処罰されることすら起きている。

金正日総書記と内縁関係にあった人民俳優の禹仁姫(ウ・イニ)は、直接的な性暴力の被害者ではないが、浮華放蕩罪という罪状で処刑されている。

(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

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新聞、テレビが性暴力について扱うこともなければ、SNS以前にインターネットへのアクセスができない。他の国で起きているような形の #MeToo は存在し得ないのだ。

韓国の北韓人権情報センター(NKDB)や北朝鮮向けのラジオ局国民統一放送のデータベースには次のような証言が記録されている。

① ある日、保安署監察課の課長が他の収監者に作業を与えて外出させ、残った私には食事を作れと命じました。他の人から引き離したわけです。私は「ああ、今日の食事当番は私か」ぐらいにしか思っていませんでしたが、課長は私を別の部屋に閉じ込めて…男性に押し倒されて押し返せる女性はほとんどいないでしょう。私も必死で抵抗しましたが、結局は強姦されました。―― 2009年に脱北後、北朝鮮に強制送還された経験を持つ女性

② 両江道(リャンガンド)普天(ポチョン)郡の保衛部政治部長のリ・チャンジュ上佐は、マ氏という男性の妻を取り調べる中で「お前の釈放は俺のさじ加減次第だ。お前が俺によこせるものは何だ?」と言い、性交渉を強いたそうです。脅迫、懐柔すると同時に何度か強姦したそうです。女性を釈放した後は家まで追いかけて行き、再度強姦するほどの悪辣さです。―― デイリーNK「北朝鮮人権内部告発」より

③ 2011年1月中旬、◯◯保安署に1ヶ月ほど勾留されていました。真っ暗な10坪ほどの部屋に40人が押し込められていましたが、暴力を振るわれることはありませんでした。軽い仕事をさせられることもありましたが、1日中ただただ座っていることを強いられるのが基本でした。ただし時々、保安員からセクハラされることがありました。

何かの文書を作成するように言われてまごついていたら、保安員が手助けするふりをしながら触ってはいけないところを触るのです。体を揉まれたりマッサージを強いられることもありました。他の人も同じような目に遭っていました。1ヶ月の間に3〜4回はあったと思います。――両江道出身女性(北韓人権情報センター人権白書2017より)

脱北者によると、かつては性犯罪者に対する処罰が行われていた。1970年代初頭に清津(チョンジン)では、40人もの女性を強姦した30代男性が公開処刑された。しかしどういうわけか、それ以降は性犯罪者が厳しく処罰されることはほとんどなくなったという。当局が性犯罪による被害を軽視している表れだろう。

北朝鮮の性犯罪は当局の放任、黙認のもとに公然と行われている。それどころか、政治犯収容所などでは、むしろ国の側が性犯罪の加害者となっている。

専門家は、北朝鮮当局が国民の人権を保護する意思がないため、国際社会が介入しなければならないと口を揃える。外部の評価に敏感に反応する金正恩政権の性格を積極的に活用し、変化を導き出すのが必要だということだ。

長年に渡って北朝鮮女性の人権問題を扱ってきた専門家は次のように語っている。

「金正日政権時代には、北朝鮮の人権について調査を行っても変化を促すことができるか疑問だったが、金正恩政権になってからは北朝鮮国内でも『人権侵害』という言葉が使われるようになったとの証言が出ている。外部からの継続的な問題提起が重要であることが明らかになっている」

(参考記事:「ガサ入れするなら令状を見せろ!」金正恩体制に抗議を始めた北朝鮮市民

同時に、将来ありうる処罰に向けて、人権侵害の実態を記録しておくことが必要だとして、「加害者の名前など正確な情報を蓄積することが重要だ。被害事例が海外で認識されていることが伝われば、社会全体に人権意識を拡散させられる」と語った。

北朝鮮を脱出し、韓国にやって来た脱北女性も性暴力にさらされている。韓国の新体操チームの監督を務める韓国の新体操ナショナルチームのコーチを務めたイ・ギョンヒさんは、JTBCテレビに出演し、大韓体育協会の幹部から長年に渡って性暴力を受けていたことを告白した。

(参考記事:北朝鮮「元新体操の星」の#MeToo、性暴力被害を告発

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記