米ハワイ州で日本時間の1月14日午前3時すぎ(現地時間13日午前8時すぎ)、北朝鮮からハワイに向かって弾道ミサイルが発射されたとする警報メッセージが誤って住民や観光客の携帯電話に一斉送信され、一部の住民らが避難を始めるなどパニックになった。
これについて米連邦通信委員会(FCC)は同30日、担当者が抜き打ち訓練を「実際の攻撃」と誤解したことなどが原因だったとの中間報告書を発表した。
誤配信されたメッセージは「ハワイへの弾道ミサイルの脅威。すぐに身を隠してください。これは訓練ではありません」との内容で、州内の携帯電話に強制的に送られる仕組みになっている。ロイター通信によると、フロリダ州でゴルフをしていたトランプ大統領は、警報を受けてプレーを中断したという。
これは、偶発的な出来事が、取り返しのつかない事態に発展してしまう危険を示す好例と言える。仮に、抜き打ち訓練を「実際の攻撃」と勘違いしたのが政府や軍のより重要なポジションにいる担当者で、誤って押したボタンが北朝鮮への「反撃」につながるようなものだったら、どうなったか。
これは、決して杞憂ではない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮と韓国は2015年8月、軍事境界線をはさむ非武装地帯(DMZ)でのトラブルから、戦争寸前まで行ったことがある。きっかけは、北朝鮮側が仕掛けた対人地雷により、韓国軍兵士が身体の一部を吹き飛ばされ重傷を負ったことだったが、その背景にはこのエリアにおける「兵士脱北」問題があった。
DMZでは近年、北朝鮮兵士が徒歩で南側に入り、亡命するなどの出来事が相次いでいる。兵士らが飢えや虐待に苦しむ北朝鮮軍の軍紀びん乱は周知のとおりだが、韓国軍の警備に欠陥があるのも明らかだった。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)DMZに入り込む北朝鮮兵士に対し、韓国軍は必要なら発砲するなりして警告せねばならない。そのようなリスクがあれば、北朝鮮兵士が最前線で脱北するのは簡単ではなかったろう。ところが韓国軍では、亡命兵士が見張り所に近づき、ドアをノックするまで気付かないといった事態が起きていたのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面これには、北朝鮮側もしびれを切らしたもようだ。北朝鮮軍は2015年4月から、DMZで不審な動きを見せる。軍事境界線の西部から東部までにわたり、5人~20人単位で近接偵察と何らかの作業を繰り返していたのだ。
これについて韓国側は当初、北朝鮮が兵士の脱北防止のために地雷を埋設しているものと見ていた。地雷埋設の情報が北朝鮮軍の部隊内に広まれば、脱北を企む兵士も「あそこは危ない」と考え、容易に行動することができなくなるからだ。
ところが不運なことに、この地雷に偵察任務中の韓国軍兵士が接触してしまった。その地雷が、韓国側を狙ったものではないと薄々わかっていたとは言え、DMZでの地雷埋設は明白な休戦協定違反だ。ここから双方は非難の応酬を繰り返し、危機がエスカレートしてしまったのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面その過程で韓国軍は、北朝鮮の地雷が爆発し、兵士らの身体が吹き飛ばされる瞬間の動画を公開している。仲間が傷つけられる場面を見た韓国軍将兵や国民の中には、強い復讐心を抱く者も少なくなかった。韓国側は北朝鮮に軍事的圧力をかけ、北側もこれに対抗する動きを見せる。
(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間)この時、韓国と北朝鮮はすんでの所で踏みとどまり、話し合いにより危機を回避した。しかし事態の進行がより早ければ、対話が間に合わなかった可能性もあった。
つまり、誰も戦争を計画していないのに、偶発的な出来事が戦争の引き金を引いてしまう可能性は常にあるということだ。
昨年11月に起きた北朝鮮兵士の亡命事件では、追撃兵らが軍事境界線の南側に向けて数十発の銃撃を行った。これが、北朝鮮と米韓との交戦に発展したらと思うとゾッとするが、最近の韓国メディアの報道では、件の兵士は酒に酔って交通事故を起こし、その「勢い」で亡命を決行したという。
事実なら、ひとりの「酔っ払い」がアジアを揺るがす危機を作り出すかもしれないということなのだ。
(参考記事:必死の医療陣、巨大な寄生虫…亡命兵士「手術動画」が北朝鮮国民に与える衝撃)高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。