デイリーNKの取材班はこのほど、中国の吉林省で貿易業に従事している北朝鮮人男性、ハン・ミョンフン(仮名)さんのインタビューを行った。
ハンさんは、国連安全保障理事会による対北制裁決議が自分たちのビジネスをいかに強力に締め上げているかについて語り、「正直言ってもう死にそうだ」「もう逃げ出したい」などの心情を吐露した。
(参考記事:「金正恩のウソは誰もが見抜いている」北朝鮮の貿易関係者インタビュー)北朝鮮から逃げ出して韓国入りした脱北者の数は、昨年は前年比で減ったものの、2016年はそれまでの低落傾向から一転して増えていた。その大きな要因となったのが、海外に駐在する外交官や貿易関係者、レストラン従業員らの亡命だった。
北朝鮮は脱北の取り締まりを強化しているが、それにも関わらず、昨年は計9回にわたり15人の北朝鮮国民が、北朝鮮と米韓軍が対峙する最前線の警戒をかいくぐって韓国に亡命した。前年の亡命者が5人だったのに比べ3倍に増えた。しかも、昨年の亡命者のうち4人は軍人である(前年は1人)。
とくに衝撃的だったのは、11月13日の兵士亡命時に起きた銃撃事件だ。このとき、亡命した北朝鮮兵士は追っ手の銃撃を浴び、瀕死の重傷を負った。
(参考記事:必死の医療陣、巨大な寄生虫…亡命兵士「手術動画」が北朝鮮国民に与える衝撃)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
続いて今月21日に起きた兵士亡命に際しても、北朝鮮と韓国は交戦には至らなかったにせよ、双方が発砲する場面があった。
そのような危険を冒してまで脱北する人々がいるということは、北朝鮮国内にはまだまだ「脱北予備軍」がいると見るべきかもしれない。
また、前述のハンさんのインタビューでより印象的だったのが、次のような言葉だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「向こう(北朝鮮)にいる親しい同僚は『金正恩氏は嘘ばかりつく。庶民は飢えているのに、豊作だと言ってばかりいるが、そんな言葉を誰が信じるのか?』と言っていた。(体制批判は危険なのに)友人に向かって首領(金正恩氏)批判をするなんて、いかにもどかしい思いをしているかということだ」
北朝鮮では、人が数人集まれば、必ず1人は秘密警察である国家保衛省のスパイが混じっていると言われ、ごく親しい仲間内でも体制批判はなかなか口にできない。
ところが最近は、この手の話がちょくちょく漏れ伝わってくる。
(参考記事: 「米軍が金正恩を爆撃してくれれば」北朝鮮庶民の毒舌が止まらない)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
民主主義のない北朝鮮に対しては、いくら国際社会が経済制裁を加えても、それが体制不安につながることはないと考えられてきた。だがもしかしたら、経済面の苦しさを取り繕うため当局が嘘を重ねたことで、民心の離反が思ったよりも進んでいるのかもしれない。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。