北朝鮮において国家指導者の生誕記念日は「民族最大の名節」、つまり国にとって最も重要な日だ。金日成主席を生誕を祝う太陽節(4月15日)、金正日総書記の生誕を祝う光明星節(2月16日)を盛大に祝うのはもちろんのこと、先月24日の金正日氏の母の金正淑(キム・ジョンスク)氏の生誕100周年にも様々な行事が開かれた。

一方、金正恩氏の誕生日の1月8日(9日説もあり)、北朝鮮では特に関連行事が開かれることはなかった。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞、国営の朝鮮中央通信、朝鮮中央テレビのいずれもこのことには触れていない。

平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、金正恩氏の誕生日当日はお菓子が配られたぐらいで関連行事は開かれなかった。行事と言えば、新義州(シニジュ)で6日、金正恩氏が施政方針演説「新年の辞」で示した課題を貫徹するための群集集会が開催されたが、同氏の誕生を祝うためのものではなかった。

それどころか、今月6日から1週間、工場や企業所を含む地域の特別警備が強化され、わずかばかりのお祝いムードすら吹き飛ばされた。

特別警備が敷かれた理由として情報筋が挙げたのが、対北朝鮮制裁で貿易が不振を極め、家族単位の脱北が相次ぎ、新義州では昨年末から「中国を経てスパイ団が侵入した」との噂が広がったためだという。

新義州に駐屯する朝鮮人民軍の幹部が12月の集会で「米軍が北朝鮮を爆撃する」との噂を意図的に流したが、スパイ団侵入の噂もこの時に流された可能性がある。体制への脅威という点で似通った話だからだ。

(関連記事:「もうすぐ米軍の爆撃が始まる」北朝鮮軍が流す「Xデー」情報

爆撃説はあまり広がらなかったようだが、スパイ団侵入説はそれなりに効果があったのかもしれない。あるいは「こういう噂がある」と意図的に取り上げ、特別警備の理由にしたのかもしれない。住民統制を強化し、体制に対する潜在的な不満の芽を摘むためだ。

一方で情報筋は、特別警備が行われた理由について次のような見方も示した。

「いくら金正恩氏の生誕記念日が公式の祝日に指定されていないとしても、重要な日であることには違いないため、政治的な事件が起きれば大騒ぎとなり、民心離反が広がる危険性がある」

また、問題が起きれば幹部が責任を取らされることになるという理由もあるだろう。

祝日に指定されなかったことについて、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、「経済制裁で仕事を失った人々は、それが金正恩氏が進める核・ミサイル開発のせいであることを知っており、世論が芳しくないため」としている。誕生日を祝日に指定し、それがきっかけとなり庶民の不満が爆発するのを恐れたということだ。

(関連記事:新年の「金正恩カレンダー」が北朝鮮で人気ダダ下がりのワケ