2017年の北朝鮮を振り返る(9)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面今月14日、デイリーNKジャパンは北朝鮮の金正恩党委員長の異母姉・金雪松(キム・ソルソン)氏の写真を世界で初めて公開した。提供してくれたのは、脱北者で平壌中枢の人事情報に精通する李潤傑(イ・ユンゴル)北朝鮮戦略情報センター代表である。
金雪松氏の情報が韓国や日本で出回り始めたのは、2006年頃のことだった。韓国紙の朝鮮日報は同年2月25日、元朝鮮労働党幹部の脱北者の話として、「(金雪松氏は)目鼻立ちのはっきりした美人」「身長165センチで、北朝鮮の一般女性と異なり、腰まで届くような長髪」などと伝えた。
(参考記事:金正恩氏の「美貌の姉」の素顔…画像を世界初公開)金雪松氏は、父である金正日総書記の秘書役を務めていたことで知られる。金正日氏からの信頼は非常に厚かったとされ、同氏は2011年12月に死亡する少し前、妹の金慶喜(キム・ギョンヒ)氏に当てた遺書で「金雪松(キム・ソルソン)を正恩の幇助者(助言者)として準備させ後押しするように」と指示していたという。
ただそれにしては、金雪松氏はこれまで一度も、北朝鮮の公式メディアに登場したことがない。おそらく、金正日氏の派手な女性遍歴を隠すためなのだろう。そのせいで、北朝鮮における金雪松氏の役割は詳しく分析されてこなかったのだが、一説には、北朝鮮の政務と人事を一手に掌握する朝鮮労働党組織指導部長を務めたとも言われる。
韓国の情報機関・国家情報院によれば、党組織指導部長には最近、党副委員長でもある崔龍海(チェ・リョンヘ)氏が就任したという。崔氏は素行にたいへんな問題があるとされ、本当にそんな人物が組織指導部長になったのか疑いたくなる。
(参考記事:美貌の女性の歯を抜いて…崔龍海の極悪性スキャンダル)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
しかしたしかに、各種の指標は同氏の組織指導部長説が事実である可能性を示している。
もっとも、今年の北朝鮮における幹部人事で最も目立ったのは、金正恩氏の実妹・金与正(キム・ヨジョン)氏の出世ぶりだ。
(参考記事:【写真】金与正氏の存在感が増している)金与正氏は、2016年5月の党中央委員会第7期第1回総会(全体会議)で党中央委員となり、今年10月の同第2回総会では政治局委員候補に選任された。金与正氏の正確な年齢は不明だが、まだ20代後半から30代初めと見られる。さすがにロイヤルファミリーの一員でもあり、かなりのスピード出世だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面気になるのは、金与正氏が今後、どのような役割を担っていくかだ。一説に金与正氏は、正恩氏の「動線」を点検する任務を与えられているとされる。米韓が北朝鮮指導部に対する「斬首作戦」の導入に動いている上に、正恩氏には一般人と同じトイレを使うこが出来ないという状況もある。そんな条件下で正恩氏の動きを取り仕切る事ができるのは、やはり信頼できる身内しかいないのかも知れない。
(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳)だが、金与正氏が今後、党中枢で権力の階段を登って行くのならば、果たすべき役割はこの程度のものでは済まない。
前述した李潤傑氏によれば、金正日総書記の死後、党組織指導部長は金慶喜氏と金雪松氏が歴任した。金正恩体制においては、実は女性が相当に大きな役割を果たしてきたということだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面今後は金与正氏も、これから時間をかけて経験を積み、叔母や姉に匹敵する重要ポストを任される可能性もあると考えられる。そうなったとき、金正恩氏を最も身近で補佐するのは、雪松氏と与正氏の「最強の姉妹」になるというわけだ。(了)
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。