北朝鮮の金正恩党委員長は29日、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」型の発射実験を現地指導し、「今日ついに国家核戦力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業が実現されたと誇り高く宣布した」という。

ここで興味深いのは、金正恩氏が語った「完成」という言葉の意味だ。

北朝鮮はおそらく、国際社会による制裁下でも必要な実験を行えるよう資材を備蓄しているはずだ。そして、技術やデータの蓄積が十分なレベルに達したら、一方的に核・ミサイル実験の停止を宣言するつもりだろう。そこで初めて対話に乗り出し、国際社会に制裁解除を迫るものと思われる。中国やロシアの支援があれば、制裁解除を勝ち取ることは夢ではない。

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軍は弱体化

だから、前述した「完成」の意味が、もう十分な技術とデータを獲得したという意味なら、北朝鮮はここでいったん、弾道ミサイルの発射を止める可能性が出てくることになる。

ただ、「火星15」型の射程は米国の東海岸に届くレベルとされ、飛距離の面ではかなりの性能を発揮したものの、核弾頭を大気圏に再突入させる技術を北朝鮮がどの程度獲得したかについては、まだまだ検証の余地がある。

また、北朝鮮が配備を目指している核戦力は、弾道ミサイルだけではない。核を搭載した弾道ミサイル潜水艦も建造中だとの情報もあるのだ。ちなみに金正恩氏の父・金正日総書記は生前、ICBMと潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、そして韓国のインフラを壊滅させられるサイバー戦能力を最も欲しがったという。

金正恩氏はこれに加え、特殊部隊の強化にも力を入れているように見える。確かに、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)が全体として、軍紀びん乱により弱体化している現状では、これらの戦力に集中投資を行うことは合理的だ。

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サイバー攻撃を実行

北朝鮮はもうしばらく、ミサイルの発射実験を続けるだろう。7回目の核実験を強行する可能性も低くない。

その上で、金正恩氏が満足する程度の核戦力・サイバー攻撃能力・特殊戦能力が整ったとき、いちばん怖いのは何か。破壊力の面では核が最大だが、実際に使われる可能性は小さいと思われる。そういった点を踏まえると、金正恩氏がいちばんやりそうなのはサイバー攻撃の実行回数を増やすということだ。

北朝鮮は現在でも、韓国に対して頻繁にサイバー攻撃を行っている。

(参考記事:韓国要人に「美女攻撃」…北朝鮮サイバー部隊

その対象が、日本や米国に拡大しないという保証はない。サイバー攻撃は、相手国からの兵器使用による反撃につながりにくいという特徴があるように思われるが、北朝鮮が核武装していれば、さらにそのリスクは小さくなる。つまり、北朝鮮の「やりたい放題」になる可能性があるわけだ。また、北朝鮮のようにITインフラが未整備な国は、相対的に、サイバー攻撃を受けた時の耐性が強い。

われわれは今から、核だけでなく北朝鮮のサイバー攻撃能力に対しても警戒を高めておくべきだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記