北朝鮮・寧辺で新たなウラン濃縮施設とみられる建物がほぼ完成したとする、米シンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)の分析は、同国の核戦力が新たな段階に入りつつある可能性を示している。注目すべきは、ミサイル発射のような派手な動きではなく、核弾頭の「原料」を静かに増やす能力の拡充という点だ。
核兵器の数は、最終的にはどれだけの核分裂性物質を確保できるかに左右される。北朝鮮は従来、プルトニウムと高濃縮ウラン(HEU)の両方を用いてきたが、近年はウラン濃縮への依存を強めているとみられる。理由は明確だ。プルトニウムは原子炉運転に依存し生産量に限界がある一方、ウラン濃縮は遠心分離機を増設すれば比較的容易に拡張できるからだ。今回の新施設が仮に濃縮用であれば、その意味は小さくない。既存の寧辺施設や未申告とされる降仙(カンソン)施設に加え、新たな拠点が加わることで、北朝鮮は複数の濃縮ラインを並行稼働させる体制に近づく。
これは単純に生産量の増加だけでなく、施設の分散化による生存性向上も意味する。軍事衝突時に一部施設が破壊されても、全体の能力が維持される可能性が高まるためだ。(参考記事:【写真】「ひっくり返るしかない」金正恩”戦略原潜”の異形の姿)
では、核弾頭はどこまで増えるのか。正確な数字は不明だが、国際的な研究機関の多くは、北朝鮮がすでに数十発規模の核弾頭を保有していると推定している。濃縮能力が拡大すれば、年間数発から十数発規模で増加する可能性も否定できない。特に小型化・多様化が進めば、同じ量の核物質でも搭載可能な弾頭数はさらに増える。
重要なのは、この動きが極めて「見えにくい」形で進む点だ。弾道ミサイルの発射は国際社会の強い反発を招くが、施設建設や内部設備の更新は衛星監視に依存するため、把握には時間差が生じる。今回の寧辺の事例も、複数時期の衛星画像を突き合わせて初めて全体像が見えてきた。実際、米国を含め、北朝鮮の核施設増設の阻止に臨むリーダーシップは、事実上、存在しない。
外交的にも影響は大きい。核弾頭の増産が進めば進むほど、将来の非核化交渉における「削減対象」は増え、合意形成はより困難になる。北朝鮮にとっては、交渉前に既成事実として保有量を積み上げること自体が交渉力の源泉となる。
寧辺の新施設は、単なる建物の完成以上の意味を持つ。北朝鮮が核戦力の量的拡大を着実に進める「静かな増産体制」に入りつつある兆候とみるべきだろう。国際社会が注視すべき焦点は、ミサイルの飛翔ではなく、その背後で着実に積み上がる核物質の量そのものに移りつつある。
