北朝鮮の金正恩総書記(国務委員長)は、相次ぐ軍需工業企業所の現地指導を通じて、最高司令官としての姿を誇示する一方、露骨なまでに「武器のセールスマン」として自らを演出している。ミサイルや砲弾の生産実績を点検し、新規軍需工場の設立や既存工場の近代化を急がせる姿からは、国防の名を借りた兵器量産と輸出拡大への執念が透けて見える。
朝鮮中央通信は26日、金正恩氏がロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を模倣したとみられる「火星11カ(KN-23)」の製造現場を視察したと報じた。同ミサイルは、ロシアによるウクライナ侵略の戦場で実戦投入されたことが確認されている。金正恩氏は事実上、他国の戦争を「需要」として自国の軍需産業を稼働させている格好だ。そこにあるのは自衛や抑止ではなく、戦争の長期化から利益を得ようとする冷酷な算盤勘定にほかならない。もっとも、ロシアから期待したほどの対価を得られていない現実は、金正恩氏自身も認めざるをえないようだ。
慢性的な食糧不足と深刻な生活苦にあえぐ住民をよそに、国家の資源と労働力は軍需部門へ優先的に投入されている。これは国家防衛ではなく、体制維持と外貨獲得を最優先する歪んだ国家運営である。
軍需産業を個人権力の直轄ビジネスのように扱い、兵器生産の拡大を指示する金正恩氏の姿は、まさに「武器商人」「死の商人」と呼ぶにふさわしい。武力示威を重ねるほど北朝鮮は安全になるどころか、国際的孤立を深め、戦争経済への依存を強めていく。その代償を最終的に支払わされるのは、日々の糧に苦しむ北朝鮮の住民なのである。
