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北朝鮮北東部の経済特区、羅先(ラソン)で40代の母親とその娘が遺体となって発見される事件が起きた。直接の死因は一酸化炭素中毒だったが、たとえ中毒事故がなかったとしても、死は免れないほど追い詰められていた。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事件が起きたのは今月1日のことだ。40代女性のキムさんが、朝鮮社会主義女性同盟(女盟)が毎週土曜日に行っている生活総和(総括)に姿を見せなかった。

障がいがあり、極貧生活を送っていた彼女は女盟の行事にあまり参加できなかった。しかし、生活総和にだけは熱心に取り組んでいた。そんなこともあり、彼女が姿を見せなかったことで異変を感じた複数の女盟メンバーが自宅を訪ねた。

そこで彼女らが目の当たりにしたのは、床に倒れている母子の姿だった。娘のリさんは既に冷たくなっていたが、母のキムさんはまだわずかに意識があったた。女盟のメンバーたちは急いで病院に運んだものの、結局帰らぬ人となった。

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北朝鮮では、オンドル(床暖房)に使う練炭が原因の一酸化炭素中毒が非常に多く、人民班(町内会)で見回り活動を行っている。夜中に家々を回って声をかけ、返事がなければ住民が中毒で倒れているものと見なし、玄関ドアを蹴破って救出するという荒っぽい手法を用いているが、命には変えられない。

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だが、近隣住民は何らかの理由で母子が中毒になっていることには気付けなかったようだ。また、母親は足が悪く、一酸化炭素が室内に充満していることに気づいたとしても、逃げられなかった可能性も考えられる。

キムさんには親戚もいないため、羅先市安全部(警察署)が、洞事務所(末端の行政機関)に死亡届を出し、女盟のメンバーと人民班の人々が一緒に母子の葬儀と、遺品の片付けを行った。

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現場は、極めて悲惨なものだった。

「キムさんの家を片付けながら、女盟のメンバーたちは泣き崩れた。家に残っている食糧は、茶碗1杯分のトウモロコシの粉と、数さじの塩だけで、キムさんの極貧ぶりを肌で感じたからだ」

食糧政策の失敗により、慢性的な食糧難が続いている北朝鮮だが、それでもほとんどの家には醤油や味噌、食用油などの基本的な調味料や野菜くらいはあるものだ。だが、キムさんの家庭はそれすらない、いわゆる「絶糧世帯」(食べ物が底をつき、それを買う現金すらない世帯)だったのだ。

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その実態を目の当たりにした人々は大きな衝撃を受け、心を痛め、涙を流した。

中国とロシアとの国境に接していて、北朝鮮の地方都市の中では最も豊かな部類に入る羅先だが、障がいを抱えたキムさんは市場で商売することも、職場に勤めることもできなかった。唯一の社会とのつながりが、女盟だったのだ。

事件の話が広まると、市民は行政機関を口々に批判した。

「人民委員会(市役所)や洞事務所が生活困窮家庭を積極的に助けていれば、こんな残念なことは防げたのではないか」
「不幸な母子が亡くなったというのに、人民委員会や洞事務所は何もしてくれなかった。町内の住民が現金とお米を集めて祭壇に飾り、ささやかに葬儀を行うしかなかった」(市民)

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国営の朝鮮中央通信は、昨年12月3日の国際障害者デーに、「人民的施策によって幸せな生を享受している障害者」という記事を配信した。教育、スポーツ、文化芸術面での支援を受けて幸せに暮らしているという、タテマエばかりの記事だ。

障がいを持った人々は、ごく一部を除いて困窮生活を余儀なくされており、障害年金に相当する「労働能力消失給与」、生活保護に相当する「生活費幇助金」も生活の足しにならない。

(参考記事:障がい者の「強制隔離」を実行した北朝鮮…抹殺も検討

かつての北朝鮮は、障がいを持った人々を隔離し、抹殺を検討するなど、ナチスの「F4作戦」を彷彿させるほど優生思想に染まっていた。そうした傾向は見られなくなったとはいえ、積極的にサポートする施策も見当たらないのが現状だ。