北朝鮮の国境に接する地域で、中国との取り引きを生業としている人たちにとって欠かせないのが、チャイナ・テレコムなど中国キャリアの携帯電話だ。
北朝鮮キャリアの携帯電話では国内通話しかできず、インターネットにも繋げないが、中国のものなら、グレート・ファイアウォールにより西側の一部のサイトには接続できないものの、全世界とつながることができる。メッセンジャーアプリを使えば、韓国にいる誰かとビデオ通話すら可能だ。
だが、これは厳然たる違法行為だ。
金正恩総書記は、中国キャリアの携帯電話が国内情報の国外流出、国外情報の国内龍の元凶と見ている。
(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一例を挙げると、北朝鮮の国営メディアは、自国兵士のロシア派兵の情報を一切報じていないが、中国からのルートで情報が流入し、今では全国に知れ渡ったものと見られる。
(参考記事:息子の「ロシア派兵」を阻止すべく半狂乱で駆けずり回る北朝鮮の親たち)取り締まりを繰り返しても一向にユーザーが減らないのは、取り締まる側がその権限を「ワイロの源泉」として利用しているからだ。金正恩氏の「親衛隊」であるべき警察や秘密警察が、カネ欲しさに最高指導者への裏切りを働き続けているのである。
ただ、ワイロの相場は年々上昇し、零細業者の手に負えないほどの額になっている。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面新義州(シニジュ)で送金ブローカー業、つまり中国や韓国からの送金を北朝鮮に届けることを生業としているAさんは、各所にワイロを渡すことで摘発を逃れてきた。
昨年は2回逮捕されそうになったが、それぞれ9万元(約189万4000円)、6万元(約126万3000円)のワイロを支払って事件をもみ消した。また、取り締まり機関のイルクン(幹部)が「宿題」と呼ぶ上納金に6万元を使った。合計すると21万元(約442万円)という巨額のワイロを支払ったことになる。
ところが、手持ちのカネでは全額払えず、借金をしてしまい、その額は8万元(約168万4000円)に達した。
(参考記事:金正恩の拷問部隊が命がけでこなす「難しい宿題」)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
別の送金ブローカーBさんとCさんも、逮捕を逃れるためにそれぞれ10万元(約210万4000円)、8万元のワイロを支払った。
送金ブローカー、密輸業者、闇両替商はいずれも、安全部(警察署)や保衛部(秘密警察)の幹部に定期的に付け届けを送り、見返りに庇護を受けてきたのだが、その額はうなぎのぼりだ。
「コロナ後に中国キャリアの携帯電話への取り締まりが大幅に強化され、それまでは1万元(約21万円)、2万元(約42万円)で揉み消すことのできた問題が、今では少なくとも5万元(約105万2000円)必要になった」
今では単にカネを渡せばいいというのではなく、高位幹部とのコネがなければ、ワイロで揉み消すことそのものが難しくなってしまった。また、ワイロの追加要求が以前より頻繁になった。下手に断ったり塩対応したりすると、どんな目に遭わされるかわからず、言い値を支払って泣き寝入りするしかない。
(参考記事:「けっきょく大事なのはカネ」骨抜きになる金正恩の重点政策)上述のAさんのように、ワイロ負担のあまりの大きさに赤字になってしまい、店を畳んで転業する人も出ている。別の送金ブローカーのDさんもその一人だ。
「コロナ後に密輸ができなくなり、送金ブローカー業に商売替えをしたのだが、今後はまた密輸に戻らなければならなさそうだ」
「送金をやっていて捕まれば、一瞬のうちに全財産を失い路上に投げ出されるほどワイロをむしり取られる。カネがなければ懲役刑は免れない」
かつて、中国キャリアの携帯電話を持っている人は憧れの的だったが、今では儲かるどころかむしろ借金の山を築いてしまう。一方で、太いコネのある大手の業者は、多額のワイロさえ支払えばますます儲かる。かくして中間層は消え、貧困層と特権層だけが残り、貧富の差がますます広がるのだ。