北朝鮮の人なら誰でも胸に付けている金日成主席と金正日総書記のバッジ。神聖不可侵の存在だけあってバッジも大切にされているかと思いきや、市場で売りに出されている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋は、咸興(ハムン)市の興南(フンナム)区域の市場で、労働党旗に金日成氏の顔が描かれた「党像」と、国旗の上に金日成氏、金正日氏の顔が描かれた「双像」バッジが取り引きされていると伝えた。
衝撃的なのはその価格だ。
双像は党幹部だけに配られるものであり、権力の象徴とあって、かつては40万北朝鮮ウォン(約6800円)で取り引きされていた。ところが今では、2万北朝鮮ウォン(約340円)まで暴落。党像にいたっては1万北朝鮮ウォン(約170円)で売られている。2万6000北朝鮮ウォン(約440円)する豚肉1キロより安いのだ。
平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋も、殷山(ウンサン)の市場で、双像と党像が同じ値段で売られていると伝えた。また、社会主義愛国青年同盟が配布した青年前衛双像に至っては、8000北朝鮮ウォン(約136円)だ。いずれも3万北朝鮮ウォン(約510円)する白菜10キロより安い。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面背景には、幹部やトンジュ(金主、ニューリッチ)ですら、一つ間違えば餓死しかねないほど深刻な食糧難がある。バッジを売って、食べ物を買おうというのだ。
(参考記事:「金持ちまで餓死」北朝鮮国民がさまよう阿鼻叫喚の巷)1970年代から普及し始めたバッジや肖像画だが、1990年代初頭まで売買することなど考えられなかった。ところが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころに、食べ物を手に入れるために売る人が出始めた。
神聖なバッジや肖像画を売買すれば政治犯扱いされかねないが、高級な双像などは、出どころを当たれば高級幹部にたどり着くこともあって、皆が見て見ぬ振りをしていた。その後、何度か売買禁止令が出されたが、上述のような理由もあってか、また、ある程度の価格を維持していたこともあってか、当局は積極的に取り締まろうとしなかった。
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ところが、価格が下落して安物扱いされるようになり、買う人もいなくなってから、当局がバッジの出どころについて秘密裏に調査を始めたという。高ければ問題はないが、安くなれば最高指導者の尊厳が汚されると判断したのだろうか。ちなみに2015年にバッジ売買禁止令が出されたときも、価格が大暴落していた。
(参考記事:北朝鮮の市場では「最高尊厳」まで商品化…偶像化の象徴「バッジ」の価値が大暴落)殷山市場に流出したバッジの数は100個以上。これだけ数が多ければ出どころを探るのも容易ではないだろうが、摘発されればただでは済まされないことは言うまでもない。
(参考記事:金正恩の処刑部隊が持ち出した「太さ7センチ」の残虐行為)