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日本で、1980年代から使われるようになった「熟年」という言葉は、定年退職後の充実した生活を指すポジティブな言葉だったが、そこに「離婚」という言葉が合わせられたのは1990年代後半。

定年退職した夫が何もせず家にずっといることでトラブルになったり、積年の不満が頂点に達したりして、離婚に踏み切る熟年夫婦を指す言葉で、メディアで頻繁に取り上げられ、一時は社会現象のようになった。

その辺の事情は、海の向こうの北朝鮮でも似たりよったりのようだ。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

清津(チョンジン)市内に住むある家族は、最近トラブルを抱えている。60歳を迎えて定年退職した夫が、何もせずに家でゴロゴロして、家庭の様々なことに口出しをするため、ケンカが絶えないという。

北朝鮮で社会的に女性の地位は決して高くないが、その反面、女性の経済的な地位は高まっている。男性は国からあてがわれた職場に務めることが義務となっているが、女性はその義務の対象ではない。ジェンダーロールをもとにした制度的差別だが、これが逆に女性の地位を高めることに繋がった。

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勤め先のない女性は、市場で商売をすることで現金収入を得て、一家を経済的に支えている。一方で男性は、職場に出勤しても得られる給料は子どもの小遣い銭ほどのもの。かつて職場を通じて行われていた、食料品や生活必需品の配給も、今はほとんどなければ、給料よりさらに少ない年老保障(年金)ですらも、支給が止まったりしている。

(参考記事:「子どもの駄賃」レベルの年金も中断、北朝鮮経済の深刻さ

時代の変化についていけず、「一家の大黒柱」という意識を捨てきれない夫が、実質的な大黒柱である妻にあれこれ口出しすることで、トラブルに発展するというわけだ。

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「職場に出勤してもカネを稼いでこれないという理由もあるが、退職すれば朝から晩まで自宅にいて家のことに口を突っ込むくらいしかやることがなく、家庭不和につながる」(情報筋)

より大きな視点で見ると、有名無実化した計画経済を担っているのが男性で、実質的に北朝鮮経済を動かしている市場経済を担っているのが女性だ。

(参考記事:女性が「主導権」を握った北朝鮮の婚活事情。男性に「積極投資」する例も

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市内の青岩(チョンアム)区域では、家族の問題が理由でこんな事件が起きている。

60代男性のチェさんは職場一筋に生きてきた人で、家庭のことは妻に任せっきりだったが、定年退職してからはずっと家にいて、家族のことに事細かく口出しをするようになった。そして家族とのトラブルが頻発し、ついには刃傷沙汰に発展したとのことだ。

会寧(フェリョン)市の南門洞(ナムムンドン)では、こんなことも起きている。

今月12日、60代男性のハンさんは、退職後に妻の商売のやり方に口を出すようになり、ケンカが絶えなかったが、結局は力の強い妻に家から追い出されてしまったとのことだ。

「金儲けも食べ物の調達もせず、職場勤めしか知らない人が、家にいたところで家族に迷惑を掛けるばかりで、いない方がまだマシと言われるほど」
(情報筋)

生活力のない北朝鮮男性が妻や家族に見放されたら、待っている運命は極度の貧困、そして餓死だ。

(参考記事:妻に優しくなった北朝鮮の夫たち…亭主関白の末路は「餓死の恐怖」

だが情報筋は、「年金生活者の問題は彼らの個人的なものではなく、社会制度の問題だ」として、機能不全に陥って久しい計画経済に固執し続ける国を遠回しに批判した。

このように、日本と同様に「熟年夫婦の問題」が存在する北朝鮮だが、その中身は大きく異なる。もう一つ違う点を挙げると、離婚が容易でないことだ。北朝鮮政府は離婚を嫌っており、少子化の原因と見ていることから、かなり無理のある方法を使って離婚を抑え込もうとしているのだ。そのため、法的な熟年離婚には至らず、籍は抜かないままで事実婚ならぬ事実離婚をすることになる。

(参考記事:「思想教育で離婚を撲滅せよ」という北朝鮮の的はずれな政策