日本において、ここ数年で爆発的な勢いで普及したQRコード決済。おなじようなシステムが北朝鮮にもあることを知る人は多くないだろう。
2018年に登場した「ウルリム(響き)」がそれだ。2020年10月には「ウルリム2.0」にアップデートされた。銀行のキャッシュカードと紐付けられており、当局は使用を奨励しているが、消費者の反応は鈍い。
(参考記事:北朝鮮が新キャッシュレス決済を導入、消費者の反応は今ひとつ)
デイリーNK内部情報筋は、その理由を次のように説明した。
「銀行の現金伝送体系は、国家貿易機関、給養網(レストラン)、医療部門、運輸事業所、外務省、対外経済省などで働くイルクン(幹部)や家族は利用するが、それ以外の個人の利用はあまりない。一般のトンジュ(金主、新興富裕層)や一般住民は、銀行を利用すれば、カネの流れ、額、借金の状況などが当局にバレバレになると考えている」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮では、金持ちではなくとも、ある程度現金を持っていれば当局から目をつけられ、様々な名目で募金を強いられたり、ひどい場合には全財産を取り上げられたりする。資産と共にそれを守り抜くだけの権力や地位が必要なのだ。その両方を兼ね備えていない人は、目をつけられないように、財産を隠さなければならない。つまり、国が存在を把握できない、タンス預金となってしまうわけだ。
また、2009年11月の貨幣改革に際し、全財産を銀行に預けさせられ、引き出し制限をかけられる形で財産を奪われたことがトラウマになり、そもそも銀行を信用しない人が大多数だ。
「国が個人に対して信用を守る姿を見せず、経済がむちゃくちゃなので、住民は(銀行に)興味を持たない」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面送金を行う際には、「チョナトン」と呼ばれるシステムを使う。北朝鮮の携帯電話は、月200分までの無料通話時間が提供されているが、ほとんどの場合、1カ月経たないうちに使ってしまう。携帯電話を引き続き使用するには、逓信所(郵便局)や奉仕所(携帯電話会社営業所)に行って、米ドル、中国人民元、北朝鮮ウォンでチャージしなければならない。
これを「チョナトン」(電話+カネ)というのだが、1回にチャージできるのは500ウォン(北朝鮮ウォンではなくチョナトンの単位)までで、1ヶ月1回に制限されている。チョナトン500ウォンは30元(約600円)で購入可能で、125分の通話ができる。
これは他人への譲渡が可能で、以前は上限額の制限もゆるく、庶民の多くはこれを使って送金を行っていた。しかし、ヤミ金に利用されたりするなど様々な弊害が生じたことから、2020年7月からは、送金の最高額がチョナトン500ウォンに制限された。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面当局が、その代わりに利用せよと奨励しているのが上述のQRコード決済なのだが、銀行に対する根深い不信感のせいで、利用はあまり進まず、チョナトン利用制限に対する不満が高まっている。
情報筋は、「(公の金融が)正常化するには、何世紀かかるかわからない」と嘆いた。ある程度の額を送金するには、人づてに届けてもらうしか方法がないのだが、コロナによる移動制限でそれも難しい。
(参考記事:北朝鮮で普及「キャッシュレス決済」に金正恩氏が禁止令)