北朝鮮が、コロナ対策として国境を封鎖したのは2020年1月末のこと。外国人の入国はもちろん、自国民の帰国ですら許されていない。
帰国できずにいるのは、中国に5万人、ロシアに2万人いると言われている北朝鮮労働者も同じだ。北朝鮮に残された家族には多少の情報は伝えられているものの、携帯電話での通話が許されていないことから、顔を見ることも声を聞くこともできない。
デイリーNKは、家族が海外に派遣されて帰国できずにいる、平壌在住のAさんと南浦在住のBさんとインタビューを行った。
ー家族が海外に行ってから長い?
平壌在住のAさん(以下A):4〜5年ほどになる。2020年に世界的に新型コロナウイルスのせいで国境が封鎖され、海外に残ることになったと所属先から知らされた。長期間海外にいても、国と企業所がきちんと面倒を見ると言われた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面南浦在住のBさん(以下B):息子が海外に働きに出てから3年ほどになる。息子の消息は、他のところに派遣されて(息子と共に)仕事をしていた幹部にワイロを渡して聞き出した。病気になったら、海外の企業所と祖国(北朝鮮)が関心を持って治療をしてくれると聞いた。
(参考記事:帰国を許されずロシアで足止めを食らう「北朝鮮の兵士」たち)
ー海外に行った家族の帰国について当局からの説明は?
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面A:今のところは未定だと聞いた。最近、労働者が長期間海外で生活しているので、当分の間は帰国を保留にしているとも聞いた。休暇や帰宅は(朝鮮労働)党の決定がないので、待てと言われるばかりだ。わが国(北朝鮮)は封鎖をしているのでコロナ管理がうまくいっているが、現地はそうでないため、すぐには帰国させられないと言われた。
B:祖国から休暇や帰国の指示があるまで、帰ってくるのは難しい、国の決定に従わなければならないと聞かされた。本人も、手ぶらで帰ってくるわけにはいかず、貯金ができるまで(海外で)待とうと思う、もう少し待ってくれと思っているだろうと聞いた。たが、海外派遣労働者の間で結核や肝炎などの伝染病で別途管理対象になった人や、急な健康悪化や栄養不足で労働が困難になった人だけリストアップして、帰国させるようだとも聞いている。
ー家族に伝えたいことは?
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面A:いつも思い出して、声も聞きたいし、写真でもいいから見たい。カネが必要で行ったのは事実だが、カネより人の方が大切だ。辛いなら帰ってきてくれればいい。祖国で待つ家族は、伝聞で消息を聞くだけだ。本当にまともな暮らしをしているのか気になる。体に問題がなく健康で暮らしていることを望むばかりだ。
B:カネが稼げなかったからと、家族に申し訳なく思ったり悔しく思ったりしないで欲しい。海外に行って稼いできた人を見ると、カネは5年もすればなくなる。それで、また海外に行く人もいるのだから、辛い思いをせず、祖国から帰国や休暇命令が出たら、ただ帰ってきてくれればいい。祖国に残された家族は、海外に出た家族が血の汗を流して稼いだカネがあっても、一生遊んで暮らせるわけではない。人が大切だ。病気にならず帰ってきて欲しい。
(参考記事:ロシアの北朝鮮労働者、ルーブル暴落で苦境に)ー周囲に同じ境遇の人はいる?
A:複数いる。コロナの後遺症で肺を悪くするというが、ただでさえホコリが飛び交う縫製工場で働く家族が(健康に)悪影響を受けるのではないかと心配している。
B:海外に働きに出たが、手ぶらで帰ってきて借金まみれになった人々がいるので、少しでもカネは持って帰ってこなければならないという人もいる。最近は、家族の中に海外に働きに出た人がいなければ(ヤミ金業者が)カネも貸してくれないという。働きに出てカネを稼いで帰ってくると言わなければ、ツケで物も買えない。
ー送金は受け取った?
A:国境封鎖前には、休暇で一時帰国する人や帰国する人の手で、カネを受け取ったことがあるが、この2年は受け取れていない。
B:受け取れていない。国境封鎖で届けてくれる人が全くいないからだ。コロナ初期には、幹部1〜2人が帰国したと聞いたが、幹部が一般労働者のカネを運んでくれるわけがない。人づてでなければ、金を受け取るのは難しい。
ー労働者の家族も当局の監視を受けている?
A:当然だ。収入と支出の動向を確認されている。保衛員(秘密警察)から、便りはなかったかと聞かれることもある。人民班長(町内会長)は、「もどかしいですよね、会いたいですよね」と声をかけてくれるが、そう言いながらこちらがどんな話をするか聞いている。下手なことを言って捕まったら、稼いできたカネを没収する名分を与えることになるので、家族は目を閉じて、耳と口を固く塞いで、黙々と自分の仕事をしている。
B:家に誰が出入りしているか、何を考えて、何を話しているか監視されている。親しい人に(当局から監視せよという)任務が与えられることもあるが、そう言われたと教えてくれる。社会全体が監視を受けているが、われわれ(海外派遣労働者の家族)はさらに言葉に気をつけなければならない。
ーそんな状況でも海外に出ようとする人はいる?
A:多い。共和国(北朝鮮)の人々は、一生(海外に)出るということを想像すらできない。家族の誰かが海外に行ってくるか、本人が行ってきてこそ、その家が豊かになると考えられている。海外に行こうとする人も、なかなか機会が得られず、もどかしい思いをしている。
B:地方から海外に行くというのは、一世一代の大チャンスだ。苦しい仕事と知ってはいても、娘、甥や姪、嫁まで含めて皆が行きたがる。海外経験があれば評判もよくなり、何よりも、死ぬまでに100ドル(約1万3800円)を手にしたいという地方の人は多い。
(編集部注:北朝鮮の一般労働者の月給は3000北朝鮮ウォン、約60円に過ぎない)