北朝鮮が首都・平壌の超一等地、和盛(ファソン)地区で進めている住宅建設プロジェクト。
特権層の間では、この地区の住宅の入手を狙って、様々な動きが起きている。一方、現場で働かされている朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の建設部隊の兵士や、突撃隊(半強制の建設ボランティア)の扱いは酷く、超格差社会と言える北朝鮮の断面が垣間見える。
(参考記事:北朝鮮「上級国民ニュータウン」に浮足立つニューリッチ)事故死が多発する現場の状況を、デイリーNKの内部情報筋が伝えた。
今年4月、中央から現場に、作業速度を従来の2〜3倍にせよとの指示が下された。様々な事故の原因と指摘されつつも、一向に改善しない北朝鮮の病弊の一つである「速度戦」だ。
(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面速度のみならず、建物の質の高さも求められる。平壌ではかつて、完成直後のマンションが手抜き工事により崩壊する事故が起き、多くの人が犠牲になる事故が起きているが、金日成主席、金正日総書記の亡骸が葬られている錦繍山(クムスサン)太陽宮殿に近接する「聖なる地域」であるこの地で、そんな事故の発生は絶対に許されないのだ。
(参考記事:北朝鮮「23階建てマンション崩壊」消えた数百人の遺体)現場の指揮官は「しっかりしろ。安全規則を徹底的に守れば事故が起ころうか。事故は常に本人の不注意によるものだ。死ねば自分が損するだけだ」などと、事故の責任を、ひどい環境で働かされている人々になすりつけるような発言を行った。
さらに、通常なら行われる女盟(朝鮮社会主義女性同盟)や人民班(町内会)による後方物資支援(差し入れ)もまともに行われず、兵士たちは空腹に耐えながら作業を行っていた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面案の定、事故は起きてしまった。とにかく早く仕上げろと時間に追われて、徹夜での労働を強いられた上に、安全装備をきちんと装着しないまま作業を行っていた兵士5人が、高所から墜落して死亡したのだ。
それでも現場の指揮官の口から出るのは、繰り上げ完成を催促し、「最高司令官(金正恩総書記)の命令、指示を貫徹するためには、倒れる権利すらない」という言葉ばかり。
「人民第一主義」を掲げる金正恩氏だが、実際にはどれほど多くの犠牲者が出ようとも、成果として示すことのできるハコモノを作り上げることの方が、人民一人ひとりの命よりよほど重要なのだろう。人命軽視。それが北朝鮮の実態だ。
(参考記事:また死亡事故発生、北朝鮮「血塗られた大型事故」の歴史)