警察官を「タコ殴り」にした、ある北朝鮮の母娘の強硬な主張

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北朝鮮国民は乳幼児を除けば、何らかの組織に属することになっている。エリートなら朝鮮労働党、若者なら青年同盟(社会主義愛国青年同盟)、家頭女性(専業主婦)なら女盟(朝鮮社会主義女性同盟)といった具合だ。そのいずれの参加資格にも相当しない人でも、人民班(町内会)に所属することになっている。

所属先では思想教育、勤労動員、生活総和(総括)などの「組織生活」を行うことになっているが、かつてはその見返りに、食糧配給などの様々なメリットが得られることになっていた。しかし、そのメリットが失われた今、組織に入るのを避けようとする人もいる。それが、事件に発展してしまった。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事件が起きたのは、中国との国境に接する咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)。市内の遊仙洞(ユソンドン)に住む50代女性のチェさんは、普段から地域担当の安全員(警察官)とトラブルを抱えていた。

というのも、チェさんには軍を除隊して帰ってきた20代の娘がいるのだが、本来なら15日以内にすることになっている、安全部(警察署)への住民登録、青年同盟(社会主義愛国青年同盟)への登録、職場への配置など、民間人としての再スタートを切るにあたって必要な手続きを、9ヶ月経っても何一つしていないのだ。

世界で最も長いと言われる北朝鮮の兵役だが、食糧供給がまともに行われず、兵士は常に飢餓状態にある。栄養失調の治療のために、一時的に帰宅する兵士もいるほどで、兵役満了後も、働けるまで回復するまで、かなりの時間がかかると言われている。おそらく彼女も、体力回復を図っていたのだろう。

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また、組織に登録したところで配給を得られるわけでもなく、特にメリットがないため、手続きを遅らせる人が少なくないと、情報筋は説明した。

「女性の除隊兵士が労働党員でなければ政治的に大きな問題にされないため、組織登録、居住登録をせずに、数ヶ月から数年を無職で暮らすこともある。若者が、社会に何の期待もしていないからだろう」(情報筋)

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しかし、登録をせずに無職でいることは違法行為だ。行政処罰法第90条には最高で労働教養(強制労働)3ヶ月以上の行政罰が定められている。

地域の安全員は毎日のようにやってきて「なぜ娘は居住登録をまだしないのか」「中国に逃げようとでもしているのか」「今月中にしなければ労働鍛錬隊(刑務所)行きだ」などと、半ば脅迫し続けたという。コロナ鎖国の長期化で経済は停滞、ワイロをせびり取ろうにもうまくいかず、タバコ1箱でもせしめたいとの気持ちで、しつこく脅迫し続けたのだろう。

だが、堪忍袋の緒が切れたチェさん。「除隊してきて以来、ホカホカな白飯1杯も食べさせられず、服1着も買ってあげられていない」「祖国を守って戻ってきたのに、お前ごときが、娘をいじめるのか」などと激しく反論。娘も加勢してつかみ合いのけんかに発展したという。

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2人とも逮捕され、現在は安全部に勾留されているが、情報筋は、社会秩序を維持する安全員を暴行しただけあり、重罰は避けられないだろうと見ている。その場で殴り殺されなかっただけでも、まだマシなのかもしれない。

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