北朝鮮国民が「金正恩の銀行」を断固拒否するもっともな理由

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社会主義を標榜する北朝鮮にも、宝くじがある。最も一般的なものは「体育抽選」と呼ばれるスポーツくじだ。北朝鮮の対外向けプロパガンダサイト「朝鮮の今日」によると、スポーツくじは1986年から始まり、詳細は不明ながら「種目当て」、「番号当て」、「勝敗当て」に加え、スクラッチタイプも存在し、当選者は賞金ではなく液晶テレビ、洗濯機、自転車などの商品がもらえる形式だ。かつての中国の宝くじと似た形式だ。

これ以外の宝くじ的な性格を持ったものとしては「抽選制貯金」というものがある。銀行に預金すると四半期ごとに抽選が行われ、1等当選者には預金額の100%、2等は30%、3等は10%の利子が支払われるというものだ。

10万北朝鮮ウォン(約2000円)という上限額があっても、かなりの額の現金が手に入るめったにない機会とあって、相当な人気を博していたが、最近はさっぱりだという。デイリーNKの北朝鮮内部情報筋が伝えたその理由は、「強制預金」の影響だ。

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強制預金とは文字通り、現金を強制的に銀行に預けさせるものだ。北朝鮮は過去に何度も同様のキャンペーンを行ってきたが、現在も、人民班(町内会)を通じて1世帯あたり一定金額を預金せよという「預金計画」(ノルマ)が押し付けられている。

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しかし、北朝鮮の人々は一向に銀行に向かおうとしない。それには理由がある。2009年の貨幣改革(デノミネーション)のときに、銀行に強制的に旧紙幣を預けらせられ、新紙幣の引き出しに制限をかける形で財産を奪われたことへの強烈なトラウマがあり、銀行を全く信用せず、利用しようとしないのだ。

「北朝鮮国民は、銀行に預けたカネは引き出せないと認識している」(情報筋)

また、銀行に預金すれば、財産の規模、出どころが当局に筒抜けになってしまい、「タカリ」のターゲットになりかねない。あれこれイチャモンを付けられ、全財産を奪われることすらあり得る。そのため、財産は外貨に替えてタンス預金にするのが基本だ。

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政府は国内の通貨流通量が把握できずにいるのだが、自らの間違ったやり方を改めようとしないまま、強制預金キャンペーンを行っているのだ。しかし、北朝鮮国民は一向に預金をしようとしないばかりか、押し付けがましいやり方から、そこそこ人気のあった「抽選制貯金」まで利用されなくなり、現金を少しでも国庫に吸い上げようとする国の意図とは逆の結果を招いてしまった。

「かつては抽選制預金が最も好まれていた貯金商品だったが、今では完全に異なる。抽選だろうがどうだろうが、貯金所(銀行の支店)に入ったカネはもはや自分のカネではなくなるという認識が徐々に拡散した」

「(国や銀行への不信が)これほどのものなので、利子や金融商品そのものにも関心がなくなり、利用しようとしない」(情報筋)

(参考記事:北朝鮮の地方銀行が「強制預金」キャンペーン

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ちなみに朝鮮中央銀行には様々な金融商品があるが、その中には「交換事業」というものがある。貴金属や外貨を預ければ生活必需品がもらえるというもので、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」のころには多少利用されていたが、今では銀行への信用がまったくないため、利用する人はいないという。

外貨さえあれば様々な商品が購入できるのに、何のメリットもないどころか、預けたものを奪われかねないこんな制度を利用する人がいないのは当然だろう。また、金銀収売所(買い取り所)も存在するが、利用する人がおらず開店休業状態だとのことだ。

(参考記事:何度失敗しても懲りない北朝鮮の外貨強制預金