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北朝鮮に400ヶ所以上存在する、自由市場。1958年に現れた、農民が余剰農産品を売る農民市場がベースになっているが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」によって配給システムが崩壊したのを機に、実質的な食糧供給インフラを担うまでになった。

なし崩し的に進む市場経済化を阻止し、経済の主導権を市場から国の手に取り戻そうとした金正日総書記は、2009年11月に貨幣改革(デノミネーション)を断行した。ところが、経済が大混乱に陥った。対処に苦悩する父の姿を見て育ったであろう金正恩総書記は、市場に手を出そうとせず、その面で北朝鮮国民の支持を受けていたと言われている。

(参考記事:金正恩のキャッシュレス禁止令で蘇る「貨幣改革」の悪夢

ところが最近になって、国家経済発展5カ年計画の一貫としてか、北朝鮮当局は市場に対する統制を強化しつつある。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は平壌市民の話として、北朝鮮当局が先月、市内各区域の総合市場を農畜産物だけを扱う専門市場として縮小する指示を下したと伝えた。市民はこの指示について、人民班(町内会)の会議を通じて伝えられたという。つまり、かつての農民市場に回帰させるということだ。

「猫のツノ以外は全部ある」(何でもあるの意)と言われる北朝鮮の市場だが、今後は農畜産物以外の衣類、靴、食器、電化製品などは地域にある国営商店だけで販売されることになる。これら商品を市場で扱ったら没収され、商人市場への出入りを禁じられる。

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既存の商人は今後、商品を国営商店に納めて、代金は銀行を通じて受け取ることになるという。この仕組みについて説明を受けた北朝鮮の人々が、旧紙幣を銀行に預けさせ、新紙幣の引き出し上限に制限を設け、ほとんどの財産を奪った貨幣改革のやり方を思い起こし、強い拒否感を示すであろうことは想像に難くない。

(参考記事:北朝鮮の銀行は信用ゼロ…無謀な貨幣改革がきっかけ

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋も、清津(チョンジン)市内でも中央の指示に基づいて同様の措置が取られ、徹底して守るための住民対象の講演会が行われていると伝えた。

国民の多くが、収入のほとんどを市場から得ているという現実を無視した今回の措置に対しては、当然のことながら怒りと不安の声が上がっている。

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「国が、生計を立てるために商売する商人の利益まで奪い去ろうと猿知恵を働かせている。わが国(北朝鮮)の経済事情が限界に達したのではないか」
「国は数ウォンの利益を得るために日々耐えている住民の息の根を締め付けている」
(住民の声)

(参考記事:北朝鮮国民の75%、収入のすべてを「市場での商売」で得る

上述の国営商店の一つ、国家食糧販売所は穀物の販売を行うことになっているが、その実情をデイリーNKの内部情報筋が伝えている。

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現在、販売所にはコメとトウモロコシ以外の穀物や他の食品はなく、情報筋の住む地域では、市民は従来どおり市場で穀物を購入している。販売所でコメは10キロ単位での購入を求められる。市場より1キロ200北朝鮮ウォン(約3.4円)ほど安いが、質が悪い。かくして販売所は、市場のコメ商人がコメを仕入れる店となってしまっているとのことだ。

「国家食糧販売所が開いていても閉まっていても、人々は全く気にしない。依然として食糧販売所は、人民には大きな意味がないということだ」(情報筋)

ちなみに、上述のRFAの情報筋の情報は先月26日、デイリーNK内部情報筋の情報は今月1日時点のもの。中央の指示が依然として徹底されていない様子がうかがえる。

国家食糧販売所での販売は、国主導でコメ価格を安値安定させることを目指した措置でもあるが、市場でのコメ価格は1キロ4000北朝鮮ウォン(約68円)ほどで、緩やかな上昇傾向にある。市場でのコメ価格は、前年の収穫が底をつく春窮期に向けて上昇し、秋の収穫後に下落するというのが例年の流れだが、国家食糧販売所はコメ価格に何の影響も与えられていないようだ。

(参考記事:市場から「穀物供給」の主導権を奪還できない北朝鮮政府の苦悩