北朝鮮から脱北して韓国に入国した人の数は、急激な減少を見せている。韓国統一省の集計によると、2001年には1043人だったのが、2009年には2914人まで増加した。しかし、金正恩氏が政権の座についてから1000人台まで減少し、2019年には1047人、昨年はわずか229人と激減した。
ただ、これはあくまでも韓国にたどり着いた人の数だ。実際に脱北した人の数は、これよりはるかに多い。正確な数は不明だが、中国にたどり着いて逮捕される脱北者はかなりの数に達しているようだ。
デイリーNKの対北朝鮮情報筋は、「昨年から脱北する人が増え、北朝鮮と接する中国・遼寧省の丹東にある収容施設は超満員になっている」と伝えた。その理由はシンプルだ。
「(北)朝鮮の軍人が(脱北者を見つけたら)銃で撃つというのに、それでも人々が中国へ渡るのは空腹のせいだ」(情報筋)
北朝鮮は昨年1月、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために国境を封鎖し、貿易を停止する措置を取った。たちまち食糧と物資の不足が深刻化し、餓死する人まで現れた。当局は、飢えに苦しむ人々を抑えつける策に出た。国境警備を今までになく強化し、国境地帯に近づく者に対して射殺命令まで出した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面それにもかかわらず、命をかけて脱北する人が少なくなかったようだ。民間人ばかりではない。国境警備隊員や、警備強化のために増派された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の暴風軍団、第7軍団からも脱北者を出す始末。中国側では、北朝鮮の食糧事情が、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」に匹敵するほどひどいのではないかと噂されているという。
(参考記事:「銃殺より餓死が怖い」北朝鮮の国境警備隊員が中国に逃亡)さて、脱北のルートだが、かつて東洋一と呼ばれた水豊(スプン)ダム周辺で川を渡るケースが多いという。川幅は広いものの、水が少なく冬場は凍結しているため、渡りやすいのだ。また、対岸は観光地で、レストラン、商店、人家があるが、冬季は人が少なく、食糧を買うにも盗むにも都合がいい。脱北者が増えたことに気づいた中国当局は、川に張った氷を割るなどの侵入防止策を取った。
水豊ダムのある北朝鮮の朔州(サクチュ)では、今年3月に封鎖令が敷かれたが、背景には情報筋の指摘した主要脱北ルートの存在があったのかもしれない。餓死者が発生し、移動を禁じられた郡境の外に畑を持っている住民が多いことから、封鎖令はなし崩し的に解除されたが、代わりに水豊ダム周辺の20世帯など合計80世帯に自主隔離が命じられている。
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その後、春の訪れで川の氷が溶けたことに加え、北朝鮮が国境沿いにコンクリート障壁と高圧電線の設置の設置を進めていることで、脱北する人は姿を消したとのことだ。
(参考記事:北朝鮮が中国との国境に「コンクリート壁」を建設…脱北・密輸防止で)北朝鮮は昨年来、中国で逮捕されて強制退去処分を受けた脱北者の受け入れを拒否し続けている。コロナの国内流入を極度に恐れているためだ。一部で貿易再開の動きはあるが、情報筋はコロナが落ち着くまで北朝鮮は受け入れを拒否し続け、収容される脱北者がさらに増えると見ている。
(参考記事:「20代の妊婦」新型コロナで命拾い…北朝鮮送りを免れる)