「ペペロ」――細い棒状の焼き菓子にチョコレートをコーティングした韓国・ロッテ製菓のスナック菓子で、日本の江崎グリコ「ポッキー」の類似商品だ。このペペロを恋人に贈り合う11月11日は、ペペロデーと呼ばれている。さしずめ韓国版バレンタインデーと言ったところだろうか。
その由来は、1993年に釜山のある女子校の生徒の間で、この菓子を食べて痩せるダイエットが流行していることを、ロッテ製菓の支社長が報告を受け、マーケティングに利用したことと言われている。ちなみに「ぺぺ」とは韓国語で、体型がガリガリという意味だ。
ペペロデーは韓国の若者だけの習慣だったが、韓流の全世界的人気に乗って、いつしか様々な国に広がり始めた。それは、韓流が禁じられた北朝鮮とて例外ではない。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、平城(ピョンソン)の市場で、「コチクァジャ」が飛ぶように売れていると伝えた。「コチ」とは「串」、「クァジャ」は「菓子」の意で、平壌の大聖(テソン)食品工場製のものだが、パッケージを見る限りペペロそのもの。模倣品である。
北朝鮮ではコチクァジャを、11月11日に若い男女カップルが買って贈り合うのだという。まさにペペロデーだ。ピーナツ味とチョコレート味があり、1箱は50グラムから130グラム、価格は500北朝鮮ウォン(約6円)から1000北朝鮮ウォン(約10円)。少量で安いのでコロナ不況の今でも気軽に買えて、カップルのみならず、友人にもプレゼントして、万事うまくいくことを願いつつ食べるのだという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面情報筋によると、このような習慣は数年前に平壌の若者の間で始まり、他の大都市にも広がっている。平壌の各食品工場は、先を争って地方に製品を出荷している。北朝鮮随一の流通拠点で平城でも流行り始めたことは、全国的に広がるのも時間の問題だろう。
(参考記事:地方の零細商人を踏み潰して荒稼ぎする平壌の国営企業)これは、北朝鮮当局が忌み嫌い、厳しく取り締まっている韓流の影響にほかならない。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平安北道(ピョンアンブクト)の住民も、ペペロデーは韓国へのあこがれの現れだと説明した。
「携帯電話やSDカードを入れて、韓流映画やドラマを密かに見たり、ラジオを聞いたりする若者が増え、韓国で恋人同士が祝うというペペロデーが地方都市でも知られるようになった」
「若者を中心に、韓国の若者が楽しむ韓流文化への羨みと憧憬が広がり、11月11日がペペロデーだと知り、真似している」
当局は、K-POP、韓流映画、ドラマ、韓国文化、韓国風の言葉遣いを「資本主義の黄色い風」(いかがわしいの意)として、韓流を根絶やしにするための思想教育を進め、処刑を含めた強硬手段も取っている。しかし、ペペロデーについては今のところ、何の措置も取っていない。
(参考記事:14歳も「見せしめ」に…北朝鮮「韓流」に死刑判決)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
韓流に接している国民が7割に達する(咸鏡北道<ハムギョンブクト>の住民が、RFAの取材に伝えた幹部の発言)状況で、韓国製品や文化コンテンツなど物質的なものをシャットダウンできたとしても、無形の流行を取り締まるのは非常に困難だ。
家の構造、料理の味付け、権利意識など、北朝鮮国民の暮らしの隅々まで、韓流は影響を及ぼしている。そもそもコチクァジャ自体も、韓流なくしては存在し得なかったかもしれない。
こんな事例もある。韓国の人気料理ユーチューバーのレシピが、韓国のものであるとわからないように文字にした上で北朝鮮に持ち込まれているのだ。党と首領だけを崇めて社会主義の理想に向けて全国民が邁進する、以前の北朝鮮が目指した国家像を取り戻すのは、もはや不可能なことに思える。
(参考記事:北朝鮮の「奥様」を魅了した料理ユーチューバー)