北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は4日、平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)市の関門洞(クァンムンドン)にできた科学者、教育者のための25階建て高層マンションの入居が始まったと伝えた。
記事の写真を見ると、マンションは煉瓦色の楕円形の本館とそれを囲む2棟の建物からなっている。デイリーNKジャパンでも報じたが、実はこの建物は、金日成主席を象徴する太陽をかたどったもので、中国人観光客をターゲットにしたカジノホテルとなる予定だった。
ところが、自国民のギャンブル絡みのトラブルに悩まされている中国政府からの激しい抗議で、計画を変更。科学者、教育者が入居する高層マンションにしたという。
(参考記事:中国の圧力でつぶされた「金正恩カジノ事業」のなれの果て)北朝鮮では、住宅は無償で提供されることになっているが、実際には売り買いされている。国境を流れる鴨緑江と、川向うの中国・丹東の夜景が望めるこのマンションに飛びついたのは、党幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)だ。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、先月26日に完成したこのマンションの入居者のうち、半分程度がカネを払って入舎証(居住許可証)を得た者だ。そのうち7割は外貨稼ぎ機関、残りの3割がトンジュという内訳だ。
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当局は、住宅建設を立案しても建設するだけの予算がない。そこで、部屋の居住権を見返りに投資を募り、集めた資金で住宅を建設。投資家は対価として受け取った部屋を転売し、儲けを得るという仕組みだ。北朝鮮が誇る巨大タワマン団地、未来科学者通り、黎明(リョミョン)通りなども、この方式で建設された。当局は、予算をかけずに住宅を建設し、自分たちの成果であるかのごとく宣伝できるというわけだ。
(参考記事:制裁とコロナで青息吐息の北朝鮮が新たなタワマン計画)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ただ、国際社会の制裁や新型コロナウイルスのあおりによる経済難のせいか、投資が充分集まらなかったようで、新義州市民からもいくばくかの「税金」が徴収されたようだ。自分たちが住める望みもないマンションの建設のために負担を強いられた人々の間から、「平民が捧げた血の産物」(情報筋)などと言った不満の声が上がるのも当然だろう。
無料で入居できたのは、朝鮮労働党の政策に貢献したと評価された機関に所属する人々だ。例えば、新義州化粧品工場の研究者、中国との合弁会社、アパレル企業の研究者、技術者、新義州師範大学の教員、新義州第1中学校でエリート養成に努力した教員などだ。
新義州化粧品工場工業試験場所長のキム・フンウォンさんは、労働新聞のインタビューに次のように喜びの声を語っている。
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党の配慮で特別に選ばれただけあって、入居後すぐに部屋を売ろうとする人はいない。不動産の取り引きに対する取り締まりが強化されていることもあり、下手なことをすれば政治犯に問われかねない。
(参考記事:北朝鮮、不動産売買を取り締まる方針)すぐ売ろうとしても、居住許可を出す幹部が負担に感じて許可を出そうとしないが、3年から5年ほど過ぎれば黙認するようになるという。
ちなみに2018年の時点で、新義州市内の84平米のマンションは2万ドル(約211万円)ほどで取引されていたが、その後不動産価格は暴落した。今回完成したマンションの価格帯は不明だが、景色の良さを考えると市内の他のマンションより高値で取り引きされるものと思われる。
(参考記事:下落が止まらない北朝鮮の住宅価格、最盛期の3分の1に)