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新潟県の中学校1年生だった横田めぐみさんが北朝鮮に拉致されてから、15日で40年となった。その日に合わせたかのように、北朝鮮は拉致被害者とその家族の神経を逆なでするような主張を展開した。

「拉致問題に執着」

北朝鮮の内閣などの機関紙である民主朝鮮は15日、署名入りの論評で次のように述べた。

「日本の反動層が解決済みの『拉致問題』に執着しながらわれわれに言い掛かりをつけるのは、それなしには対朝鮮圧力体制を維持する方途がないと打算していることに関連する」

つまり、日本政府が拉致問題を政治的に利用していると言っているのだ。

しかし、何の落ち度もない日本人を「拉致」という形で自分たちの野心のために利用し、本人や家族たちを苦しめてきたのは北朝鮮の方だ。そのことを、故金正日総書記は小泉純一郎元首相との会談で認め、謝罪している。これは、一度謝ったらそれで終わりという類の話ではない。

(参考記事:抵抗したら殺せ…北朝鮮拉致指令の動かぬ証拠

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そもそも拉致問題の真相は明かされたとは言えず、まず北朝鮮が不誠実な姿勢をたださなければならないことは言うまでもない。

一方、日本政府のこの間の取り組みが不十分であることも指摘せざるをえない。被害者家族からも批判の声が上がっているが、第1次小泉訪朝から15年間、多少の前進はあったものの、依然として全面解決にはほど遠いのが現状だ。

2012年に第2次安倍政権が発足した時、安倍晋三首相は任期中に拉致問題を解決させることに強い意欲を見せた。

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2014年には、日朝両国の間でストックホルム合意が交わされ、安倍首相は「全面解決に向けた第一歩となることを期待しています」と語るなど、周囲に希望を抱かせた。ところが、再調査の中身や合意自体の解釈をめぐって、両国の溝は深まる。さらに金正恩体制が強行した核実験とミサイル発射実権をめぐり日本政府は追加制裁措置を決定した。

そこに至るまでの間、安倍政権はストックホルム合意に固執し続けた。そしてそれと同時に、国連人権理事会などではEUと共に、北朝鮮の人権問題を積極的に追及してきた。人権侵害の追及は正しい。しかしストックホルム合意は、将来の国交正常化を前提としている。金正恩党委員長は人権侵害により「人道に対する罪」で訴追される可能性が取り沙汰されており、そこに追い込んだのは日本だ。そのような独裁国家と国交正常化が可能であるはずもなく、安倍政権の対北政策は矛盾に満ちていたと言わざるを得ない。

結局のところ、ストックホルム合意は拉致問題で「何かやっているフリ」をするための、アリバイ証明として使われただけではなかったのか。

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安倍政権はいったい、どうやって拉致被害者を救出するつもりなのか。

先日、トランプ米大統領が来日し、拉致被害者家族と面会した。トランプ氏は、国連総会での一般演説でも横田めぐみさんのケースを取り上げて北朝鮮を非難した。しかし、それにより拉致被害者の救出が早まる可能性が、どれほどあるのか。安倍政権は、トランプ氏に拉致問題への関心を抱かせたことが成果であるかのように喧伝すべきではない。

それにトランプ氏との「完全な一致」を強調すればするほど、安倍政権は拉致問題で独自の行動をする余地が狭まってしまう。

正直なところ、時間的な制限のある拉致問題を進展させるためには、この問題を核・ミサイル問題と切り離し、日朝の水面下交渉で「裏取引」をするしかないだろう。「北朝鮮が核を放棄したらやる」「北朝鮮が混乱したら自衛隊が助けに行く」などといった選択肢は、現実的に存在しないからだ。

(参考記事:自衛隊は絶対に「拉致被害者」を救出できない

筆者とて、北朝鮮の人権問題を重視する立場から、国民を抑圧する体制は倒れれば良いと思っている。それでも、日本政府が拉致被害者の命を重視する立場から「裏取引」を行うなら、非難する気はない。日本国民の大多数も、同じ考えではないだろうか。

本当は、もっと違う正攻法で拉致問題が解決されれば良かった。しかしその可能性が閉じられてしまった以上、もはや「裏取引」も仕方ないではないか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記