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北朝鮮は極端な個人独裁の国家である。その最高指導者の金正日が認知症を発病すれば、それが北朝鮮の国内外に及ぼす政治的な影響は計り知れない。北朝鮮国内の統治機高ヘ根底から流動化するし、周辺国の対北朝鮮政策は根本的な練り直しが必要不可欠となるからである。

北朝鮮問題の専門家や報道機関も大変なことになる。北朝鮮が政策転換の動きを示したり、何か大事件を引き起きたりした際に、「金正日総書記による決定」とか「金総書記の思惑」とかの決まり文句を、これまで通り安易に使えなくなる。従前の北朝鮮分析は一挙に座標軸を失い、専門家は頭をひどく痛め、報道機関は大いに悩むこと必定である。

そんな悪夢がついに現実のものとなった。今年6月24日、韓国・国家情報院の元世勲(ウォン・セフン)院長が衝撃的な国会証言をおこなった。国会の情報委員会(非公開会議)で「金正日認知症」説を披露したのである。「(2008年8月の)脳内出血の後遺症で記憶力が落ち、現地指導などで論理的につじつまの合わない話ばかりしている」(朝鮮日報)と。

まさに超弩級の爆弾証言である。ところが、奇妙なことに、各国の専門家や報道機関の反応はさほど目立たなかった。おそらく、心の中のどこかで「まさか」という半信半疑、あるいは「信じたくない」という現実逃避が作用しているのだろう。だが、現実を直視せずに、まともな分析や報道ができるはずはない。韓国だけでなく、周辺各国政府はすでに上記の爆弾証言の内容を共通認識として対北朝鮮政策を独自に練り直しつつある。その具体的で先鋭的な現れが、韓国哨戒艦「天安」撃沈事件に対する米日韓三カ国と中露両国との間に生じた政策的な分岐である。

じつは、「金正日認知症」の爆弾証言に関して言えば、筆者が3年前から雑誌や著書などで再々指摘してきた。初出は「金正日は初期認知症に侵されている」(『正論』2007年11月号)だが、同論考は拙著『桝枕痩ニ・北朝鮮の狙い』(PHP研究所、2009年)にも再録されている。

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その限りで言えば、上記の爆弾証言も、私にとっては「旧聞」に属する。私の関心事は、3年も前から分かっていた事実を、韓国政府がなぜ今になって公表に踏み切ったのか、という点にある。おそらく「天安」撃沈事件と関連性があるものと推測される。

ともあれ、私は3年前、金正日の認知症を、金王朝の宮中奥深くに仕掛けられた「時限爆弾」と評した。同時に、金正日の認知症を契機として、北朝鮮の意思決定の機関が激変し、権力統治の国「が不安定化していることに強く注意を促した。北朝鮮分析はもちろん、対北朝鮮政策の根本的な練り直しが急務だからである。

ところが、専門家や報道機関の反応はきわめて微弱だった。それどころか、「冗談」と決めつけて無視を勧める専門家もいたほどである(日本政策研究センター「恵岡隆一レポート?5」2007年10月22日)。専門家ごとに情報の収集と分析で差異があるのは当然なので、筆者はあえて反論を試みなかった。この種の事実は、時間の経過が自然と優劣を決してくれるからである。そんなことよりも重要なのは、金正日の認知症を前提として、北朝鮮に関する情勢分析と政策立案を急いで転換することだろう。

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3年前の発症から、2年前の脳卒中を経て、金正日の認知症は進行の度合いを増している。それに応じて、北朝鮮の統治機高ヘ、個人独裁体制から個人秘書室統治へと変質し、さらに脳卒中以降は派閥均衡型の集団指導体制へと自室的に移行した。この集団指導体制が限界に直面した昨年3月頃からは、後継者問題(金正銀の後継内定)をめぐって、集団指導体制がこれまでの派閥均衡型から脱皮する動きを見せている。

問題なのは、これら統治国「のめまぐるしい変化が北朝鮮の内外政策を迷走させ、デノミ政策強行や天安撃沈事件といった桝魔?Yむことである。これにくわえて、金正日が政治的な判断力を喪失したにもかかわらず、生物学的には存命であることが、北朝鮮の意思決定過程を複雑にしている。そうかといって、金正日が絶命すれば意思決定の仕組みそのものは単純化するが、後継者問題を含めた権力闘争は先行きがきわめて不透明になる。

確かなことがひとつある。3年前に動き出した時限爆弾(金正日認知症)の針はもうすぐ爆発の時刻を迎える。

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※客員コラムは本紙の編集方向と一致しないこともあります。