「何度自殺しようとしたかわからない。私にとって脱北だけが唯一の生きる道だった」
中国に着いた彼女はブローカーのもとに行、「そこで何度も『品定め』をさせられた」。立ち上がって、クルッと回り、体型を見せた。そして、遼寧省瀋陽郊外の農村からやって来た男性に売られた。2万元(約13万円)だった。
(参考記事:「中国人の男は一列に並んだ私たちを選んだ」北朝鮮女性、人身売買被害の証言)一方、先ほどのキム・ジョンアさんとは別のキムさん(35歳)は、20代の頃に見知らぬ男性の友人と結婚させられた。相手は14歳年上、借金のかたに売られたのだった。夫からはほぼ月に一度暴力を振るわれたとした上で、「警察に突き出すぞと脅された。どれだけ屈辱的だったか」と語っている。
米国による今回の制裁措置は、このような状況を止めるための重要なヒントと言えるかもしれない。米国がもう一歩踏み出し、脱北者の強制送還に協力した政府に圧力をかけるようになれば、強制送還は今までよりはるかに難しくなるはずだからだ。
北朝鮮に核兵器を放棄させるには、究極的には北朝鮮を民主化させるしかない。そしてそれには、北朝鮮の反体制派がいつでも逃げ込むことのできる、安全地帯が必要だ。つまり脱北者を保護することは、北朝鮮社会の変化につながり得るのであり、それは世界の安全保障にとって必要なことになっているのだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。