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事例1. 4月に咸鏡南道咸興市から新義州に出張した北朝鮮の○○貿易会社の貿易商、ホン・ソンM(仮名, 46歳)氏が、睡眠中に死亡する事件が発生した。

ホン氏は咸鏡南道でとれた水産物を新義州を経て、中国の丹東市に運び、販売してきた。ホン氏は90年代後半から、中国と海産物の取り引きを始めて、かなりの大金を儲けた。北朝鮮で言う、いわゆる’新興の金持ち’にあたる。

ホン氏の死因は急性心臓麻痺ということが明らかになった。北朝鮮では珍しい、背丈176センチに体重80キロの壮健な男性が急に死亡すると、会社では大騒ぎになった。だが、もっと驚くべきことは、一足遅く明かされたホン氏の死因だった。

ホン氏はヘロイン中毒者だった。具体的な死亡の原因は、ヘロインの過多服用による睡眠死だった。新興の金持ちとして息巻いたホン氏の人生は、3年前に麻薬に手を出し始めてから狂いはじめ、結局、麻薬中毒の罠を脱することができずに若くして命を落としてしまった。

ホン氏のことをよく知っている、ある中朝貿易業者は、”無欠のような人が亡くなったから、家族は本当に驚いていた。お金が多くて麻薬に手を出したと、周辺でお金が罪だと言っていたよ”と語った。

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“ヒロポンを吸って砂糖水でうがい”

事例2. 同じ月、新義州市内のある家庭。かすかなバッテリーの灯りにタバコの煙が立ちこめる部屋で、4人の男がカードで遊んでいる。この4人は、市場で家電製品を仲介して売る仕事に従事している。30代後半から、40代初めの平凡な北朝鮮の男性たちだ。

彼らは一回で北朝鮮の貨幣1000北朝鮮ウォン(約350韓国ウォン)をかけて、賭博をしている最中だ。夜明けになっても男たちはカード遊びに余念がない。そして時折、ホイルで白い粉を焼いて、鼻からしきりに吸いこむ。彼らの顔に疲れたという気配はない。目だけが赤く充血している。

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賭博に夢中になっている部屋の中で、時々砂糖水を解いてくれと男たちが頼んでいる。家主の妻が砂糖を水に入れている。彼らは集団でヒロポン(メスアンフェタミン)を吸いこんで、賭博をしているのだ。ヒロポンを吸い込むと、のどや口の中に苦みを感じるため、砂糖水で口をすすぐ。

こうした事例を北朝鮮で捜すのは簡単だ。90年代後半から、高位の幹部や一部の上流層にだけ密かに流通した麻薬が、今では貿易業者や一般の住民にまで拡散している。住宅街で多くの人が賭博をして、一緒にヒロポンを吸いこむほど、事態は深刻になった。

麻薬はどの社会にも存在するという視覚を北朝鮮に適用すれば、計算違いだ。北朝鮮は麻薬の無法地帯になりつつある。子供から年寄りに至るまで、年齢と階層にかかわらず、恐ろしいスピードで拡散している。

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北朝鮮で流通している麻薬の多くは、直接北朝鮮で生産したものだ。北朝鮮は「白桔梗(ペクトラジ)事業」と呼ばれる国家的な阿片の栽培事業を行ってきた。代表的な麻薬製造工場は、咸鏡道清津の羅南(ラナム)製薬工場だ。

最近では、麻薬生産の本拠地として咸興が注目されている。平壌と清津、新義州で闇取引きされる麻薬も、咸興産と言えば信頼されるほどだ。

北朝鮮で一番広く流通している麻薬はヒロポンだ。白い粒で、住民たちは’氷’という隠語を使う。氷はまた、精製の程度によって’銃弾’と’アイス’に区別される。

その次にヘロインとモルヒネが人気がある。北朝鮮ではヘロインを錠剤の形にして流通させることが多い。現在、咸興では質によって、ヒロポン(精製アイス)1グラムが、北朝鮮の貨幣で1万〜1万5000ウォン(約3500〜6000ウォン)、錠剤は1袋(30錠)が100ドルで取り引きされている。

北の住民の麻薬服用の実態

6月初めにデイリーNKが中国の丹東市で会った、中朝貿易商人や親戚訪問に来た北朝鮮の住民を通じて聞いた北朝鮮の麻薬の実態は、想像を超えるものだった。彼らは咸鏡南道の咸興や、首都の平壌に麻薬中毒者が一番多いと語った。

咸鏡南道の咸興から中国の丹東に親戚訪問に来たチェ・ミョンギル(仮名)氏。チェ氏は中国にいる叔母に、経済的な助けを借りるために、パスポートを発給してもらって合法的に中国に来た。

チェ氏は咸興の住民たちの麻薬服用に対する記者の質問に、“咸興でお金が少しある人は、大部分がしていると思えばよい。貿易をする人が多い。長距離バスやコンテナ運送をする運転手も多い。甚だしくは、保安署(警察)の保安員まで麻薬に手を出す”と言った。

“咸興の住民たちの間には、少量の麻薬の服用は、病気の治療にとてもよいという考えが広まっている。風邪や疲れからくる病気や下痢、血圧、顔面麻痺で口がゆがんだ時、ヒロポンや錠剤(ヘロイン)を吸いこめば、効果がとてもよい。みんな、そのように理解している”と説明した。

チェ氏の主張によれば、咸興市には麻薬(ヒロポン、ヘロイン)を’万能の新薬’と思っている人が多いという。

ヘロインは本来、阿片の鎮痛効果はあるが、依存性をとり除く目的で開発され、痛みの緩和、風邪の治療、モルヒネや阿片中毒者の治療に使われた。しかし、鎮痛効果がモルヒネの10倍以上あり、有害性もほかの麻薬より大きくて依存しやすく、慢性中毒になって、使用を中止すれば禁断症状を起こす。

チェ氏は“人によって、また回数と中毒かどうかによっても違うが、米を食べて暮らす咸興の人々は大部分が1、2回経験していると思えばよい。私も風邪や疲れで全身が骨が痛むように辛くて、ヘロインを服用した経験がある”と打ち明けた。

彼はまた、“痛くても治療できる適切な薬はないが、麻薬は周囲にあふれているので、治療薬として使うしかないのが、北朝鮮の現実”と説明した。(続く)