北朝鮮の最高指導者、金正日は、その場の状況や雰囲気で物事を決めてしまう、非常に即興的な人物であると知られている。秘密のベールに包まれた人物ではあるが、そのような彼の性格を物語るエピソードは意外と多く存在する。

即興的な性格の金正日

李英國(イ・ヨングク)氏は、1978年から10年間、党中央委員会護衛部6処に所属し、金正日の警護員として10年間勤務した人物だ。脱北を試みるも失敗し、15号管理所(耀徳強制収容所)送りになったが、出所後の2000年に脱北し韓国にたどり着いた人物だ。彼は著書「私は金正日の極私的ボディガードだった-戦慄の思想と驚愕の素顔」で、次のようなエピソードを記している。

1980年初め、金正日の執務室の正門でのことだ。チョン・ムンソプ護衛司令官(警護室長)が、ナンバーのないベンツに乗って入って来た。警護官は、金正日が乗っている車だと勘違いして、そのまま通過させた。

それを聞いた金正日は烈火の如く怒り、「敵は革命の首脳部である私を、あらゆる方法で狙っている」と言い放ち、6人の警護官を処罰することを命じた。昼は行進、執銃などの制式訓練、夜は思想闘争(厳しい思想的に批判にさらされる)をさせられた。

次に金正日は「もし車が見分けられないのならば、私が乗っている車でも制止してもいい」と言い出した。ところが数日後、誰の車か見分けられなかったある警護官は、車を銃で制止した。急ブレーキをかけた車からは金正日が降りてきた。「これぐらいも見分けられないのか!」と一喝し、警護官を思想闘争の舞台に上げさせた。

話題をコロコロ変える金正日

他人と話をする時には、話題をコロコロ変えた。2001年にロシアを訪問した時、かなり長い時間ロシアについて語っていたが、突然、平壌に米国のオルブライト国務長官がやって来たときのことを語りだしたという。金正日と話したホリコフスキー氏(当時、ロシア連邦極東地区大統領全権代理)は、彼の話の内容を次のように証言した。

「私はオルブライトに『なぜ最後に残った共産主義の悪魔に会う決心をしたのか』と尋ねた。そして、オルブライトはハナから私をまるで法廷で尋問するような態度だった。私はすべての質問に答えた。

彼女は、私が前もって準備した原稿を利用して答えるのか、それとも即興で答えるのか、注意深く察した。私は自分の考えを簡単、明瞭に述べた。彼女は私の性格が気に入ったようだ」

器の大きさを見せつける演出

北朝鮮の国営プロパカンダメディアは、金正日の政治を「広幅政治」「仁徳政治」などと表現する。「器が大きく人徳がある」といった意味合いだ。朝鮮労働党の気管支労働新聞は「以民為天(人民を天のごとく見なす)」と宣伝したりもする。それはあながち間違っていない。

1978年に北朝鮮に拉致された、韓国の映画監督申相玉(シン・サンオク)と、女優崔銀姫(チェ・ウニ)夫婦。金正日は1984年、2人のためにハンガリーとオーストリアに映画会社を作った。夫婦が脱北した時、銀行口座には220万ドルの預金があったが、2人は返したと述べている。

ある側近は金正日に「彼らはどうして逃げようとしないのだろうか」と問うた。すると金正日は「なぜ逃げるのか。金の心配なく、思う存分映画を作れるというのに」と答えたという。このように金正日は、一度信じた人を全面でバックアップしようとする。交渉の時に、相手のことが気に入ったのか、提案を鶴の一声で飲んだこともあった。(李英國氏の証言)

金正日は、自らが器が大きく見せようとしていたところもある。彼は父・金日成の信任を得るために、西海閘門、金日成の巨大銅像、柳京ホテルなど、巨大建築を次から次へと企画、建設した。

金正日は、ロシアメディアとのインタビューに応じた後、次のように語った。「私についていいように書こうが悪いように書こうがあなたがたの自由だ」。器の大きさを見せつけたかったようだが、一方で自分に友好的なメディアの取材しか受け付けない器の小ささだった。

愛情欠乏と父親コンプレックス

金正日は1970年代後半まで、韓国に対する非常に強い対抗意識を持っていた。

ある日、中部戦線に赴いた金正日は、双眼鏡で韓国軍兵士がテコンドーの稽古をしている様子を見かけた。すると「南朝鮮の傀儡(韓国)がわれわれを攻撃しようとあれほど血眼になっているのに、われわれは一体何をしているのか」「テコンドー気風を吹かせ、大衆スポーツを積極的に行い、国防に貢献しなくてはならない」などと述べた。

その翌年、15号撃術研究所、社会安全部(警察庁)政治大学特殊体育学部、人民武力部(国防省)テコンドー研究所が設立された。

ロシア国営のモスクワ放送は1997年に制作した「ドキュメンタリー金正日」で、彼の性格について次のように分析した。

金正日は、生母の金正淑(キム・ジョンスク)に先立たれ、継母の金聖愛(キム・ソンエ)の下で育ち、愛情欠乏コンプレックスと父親コンプレックスを同時に経験した。小さくまるまると太ったユーラ(金正日のロシアでの幼名)は、美貌と高い背を継母から受け継いだ異母弟の金平日(キム・ピョンイル)を憎み、年上の女性である成恵琳(ソン・ヘリム)を愛した。

父を尊敬しつつも、父の影響下から抜け出そうと努力しているが、そのため彼は周囲の状況を客観的に判断できず、物事を極端に見てしまう傾向を持つというのだ。

出典:chosun.com