北朝鮮は、世界的にも珍しい国内移動の自由がない国だ。当局は、隣の市や郡に行くにも「通行証」を要求するほど、移動を厳しく制限してきた。国家主導の配給体制が機能不全に陥り、なし崩し的に市場経済が拡大してきたのに伴い都市間の移動を繰り返す人が増えてきたが、人民保安省(警察庁)は再び規制に乗り出した。
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、人民保安省は「4月1日から住民の移動を徹底的に禁止せよ」との指示を全国に下した。故金日成主席の生誕記念日である太陽節(4月15日)を前にして、事件や事故を未然に防ぐための措置だと説明しているという。
これに伴い、出張や商売などで居住地外にいる人は、3月末までに居住地に戻ることを余儀なくされた。情報筋によると、月末を前にして早くも取り締まりが始まり、各地の保安署(警察署)の留置場は、旅行証を持たずに移動していて逮捕された人々で溢れかえっているという。
移動が厳しく制限されると、物資の流通にも大きな支障が出て、物価が高騰しかねない。そうなれば、庶民の怒りの矛先は人民保安省に向かうことになるだろう。それにもかかわらず取り締まりを強化したことについて情報筋は「人民保安省が、国家保衛省(秘密警察)に握られた権限を取り戻そうとしているため」と説明した。
国家保衛省は、トップの金元弘(キム・ウォノン)氏が解任され複数の幹部が処刑されるなど、厳しい粛清の対象となっているが、人民保安省はそのスキを見て、権益拡大に動いているというのだ。その過程で、ひどい事件が起きている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面咸鏡南道(ハムギョンナムド)の別の情報筋によると、長津(チャンジン)郡保安局所属の保安員(警察官)は、旅行証を持たずに移動していたとのいう理由で6人を逮捕し、殴り殺した。
行商をしていたある一家は、夫が保安員に殴り殺され、妻は労働鍛錬隊(刑務所)に収容、子どもは育児院(孤児院)送りとなり、一家離散に追い込まれた。あまりにも理不尽な出来事に庶民は怒りに震えているという。
こうした悪質な保安員が襲撃される事件が以前から多発しているが、調子に乗って権力を振りかざし続ければ、彼らにも悲惨な末路が待っているのである。