中国における脱北者の統計は存在しない。また、大々的な調査も行われていないため、このような実例がどれほど存在するかは不明だ。そもそもこの記事も、教会が活動資金の寄付を募るための宣伝の一環とも言える。
人柄の良い夫と自らの努力で今の生活を築き上げたキムさんのようなケースは、決して多いとは言えない。今でも、売られて行った女性の相当数が、夫の暴力に苦しんでいるのだ。なによりも、そのような目に遭っても、中国当局により強制送還されるのが恐ろしくて、保護を求めることすらできないのが現実なのである。
(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち)キムさんが仮に不法滞在だとしたら、今は安定した生活を送っていても、中国当局に摘発されたらそれまで築き上げたものを一瞬で失ってしまうのだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。