脱北者「人身売買」の実態(3)

北朝鮮と中国の国境地帯で横行する、北朝鮮女性の人身売買。前回までは被害者の証言に基づき、その実態について述べてみたが、今回は「加害者」側の話に耳を傾けてみたい。

韓国の民間団体が運営する対北短波ラジオ「国民統一放送」は先月、中朝国境で脱北ブローカーをしていたことのある男性の証言を伝えた。

その男性、北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)清津(チョンジン)出身のイ・ヒョヌさんは2004年から2006年まで、脱北ブローカーとして活動。その間、50人ほどの人々を、北朝鮮から中国へ密かに送り出した。そして2006年7月に中朝国境の川・豆満江(トゥマンガン)を越え、2007年2月に韓国入りした。

想像を絶する虐待

北朝鮮と国境を接している中国の遼寧省と吉林省には、中国朝鮮族の集住地域がある。朝鮮族はその名のとおり、朝鮮半島(北朝鮮・韓国)と同じ民族であり、とくに北朝鮮と中国は、国境の両側に親戚がいるケースも珍しくない。イさんもそのひとりで、昔から中国に縁のあったことが、脱北ブローカーとなる道を開いたようだ。

イさんによれば、脱北ブローカーの手助けで脱北した女性の7割から9割が、中国側で売り飛ばされてしまったという。最初から人身売買組織に騙されていた人もいれば、中国の親戚に援助を求めに行ったところ「嫁にでも行け」と促され、仕方なしに自分自身をカネで売るようにして、中国人男性の元へ行った人もいるとのことだ。

そのようにして売られて行った女性の相当数が、夫の暴力に苦しんでいるのは前回までに説明したとおりだ。そしてそのような目に遭っても、中国当局により強制送還されるのが恐ろしくて、保護を求めることができない。

イさんはそのような実態を知りつつも、北朝鮮女性と中国人男性の間を取り持つこともしていたという。「間を取り持つ」と言っても、それは報酬のやり取りが伴うものだ。それも個人的な「お礼」ではなく、20代の女性は2万元(約33万円)、30代は1万5000元(約24万7000円)、40代なら1万元(約16万5000円)という「相場」に応じた、ビジネスとしての報酬である。

しかしイさんはあくまで、自分の行為は人助けだったと言う。北朝鮮で行き倒れるぐらいなら、たとえ望まぬ結婚を強いられるとしても中国へ行った方が、食べるものに困らなくて済むと考えたからだという。そのような考え方の是非については、ここでは論じないことにしておく。確かなのは、北朝鮮は人が生き延びる上で、極端に選択の余地が少ない社会であるということだ。

脱北自体、非常にリスクの高い行為だ。捕まって強制送還されたら、我々には想像も及ばないような虐待が待っている。

それでも、脱北する人々は敢えてその行為を選択しているのである。

そのような極限状態の中、今後も「何が何でも中国へ逃れたい」と思う人が絶えないのなら、そのような人々の足元を見て、人身売買を行う輩もいなくならないのではないか。

結局はやはり、北朝鮮国内の人権状況の改善が、最重要課題であるということだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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