金正日氏が権力を実質的に継承した1980年代までには、彼の政敵となり得る勢力はいなくなっていた。それに替わり、当局の警戒対象となったのが国民の「心」だ。東欧社会主義圏で起きた政変の影響が、国内に及ぶことを恐れたのだ。それを食い止めるため、彼は秘密警察などを使って国民の思想を絶えず「点検」し、動揺や反抗心のうかがえる者は政治犯収容所に送るなどした。
では、金正恩時代の特徴は何か。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の敏腕記者で、自身も脱北者であるムン・ソンフィ氏によれば、「住民総会」「住民暴露会」などと呼ばれる人民裁判であるという。
住民総会とは、簡単に言えば「吊し上げ」だ。役場の前や学校の運動場に舞台を設置。当局の意に沿わない言動を見せた人々をそこに上がらせ、他の住民たちに糾弾するよう強要。その後に司法機関に逮捕させるのだ。住民暴露会は、逮捕するほどでもない軽微な「過ち」を対象としたものだという。
(参考記事:北朝鮮が女子高生を「見せしめ」公開裁判にかけた理由 )金日成・正日時代にも同様のことが行われていたが、正恩時代に入り、明らかに頻度が増加。小学生から老人まで、あらゆる人々が糾弾の対象にされるようになったという。