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北朝鮮が、数百人の工作員を海外へ派遣し、彼らが各地で様々な問題を起こしていると米紙ワシントン・タイムズが26日、報じた。

性的サービスも

派遣されているのは、北朝鮮の秘密警察である国家保衛省(旧国家安全保衛部、以下:保衛省)の300人の工作員たち。工作員といっても、彼らの主な任務は北朝鮮から海外に派遣された労働者たちが脱北しないよう監視することだという。

外貨稼ぎのために、北朝鮮から海外に派遣されている労働者は5万人から多くて10万人程度と見られ、その多くが劣悪な環境での仕事を強いられている。米国務省が昨年6月に発表した報告書は、労働者が移動、通信も制限され、厳しい監視のもとで暮らしていると指摘する。1日に12時間から16時間、場合によっては20時間もの長時間労働で休みは月に1~2日しか与えられない。

昨年4月、中国浙江省寧波市の北朝鮮レストラン「柳京食堂」から脱北した男性支配人と女性従業員ら13人も、やはり厳しい労働環境と本国から課せられる無茶な外貨稼ぎのノルマに耐えかねて脱北したといわれている。中国国内の別のある北朝鮮レストランでは、ノルマを達成するため、店側がウェイトレスらに性的サービスを強要しているという情報もある。

(参考記事:中国の北朝鮮レストランで「強制売春」説が浮上

海外で働く北朝鮮の労働者が脱北して、あわよくば韓国行きを目指すのは至極当然のことなのだ。

せい惨なリンチも

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しかし、金正恩体制が積極的に労働者を海外に派遣する目的は外貨稼ぎ、すなわち国家プロジェクトでもあり、労働者の逃亡は国家の経済的損失に直結する。さらに、労働者に対する北朝鮮当局の非人道的な扱いが暴露され、国際社会から人権問題としても追及されかねないことから、北朝鮮当局としてはなんとしてでも避けたい事態だ。

だからこそ、一般の大使館員などではなく、わざわざ秘密警察である保衛省の要員を派遣して労働者を監視するのだろう。問題は、保衛員が監視するだけではなく、労働者の人権を蹂躙するような行為を行っていることだ。

そもそも保衛員が所属する保衛省は北朝鮮国内ですこぶる評判が悪い。保衛省は、秘密警察として住民を監視・統括しながら、人々の人権と自由を弾圧し、北朝鮮の三代にわたる独裁政権を陰で支えてきた。しかし、国家経済が貧窮しているため予算は減少する一方だ。そればかりか、逆に国家に上納金を納める義務も負わされる。そのため、国内では富裕層や庶民から恐喝まがいの手口で収奪する。カネを奪い取るためには、時には残忍な手口も厭わない。

(参考記事:口に砂利を詰め顔面を串刺し…金正恩「拷問部隊」の恐喝ビジネス

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保衛省のこうしたやり口は海外でも変わらない。例えば、現場から逃げ出そうとしたある労働者はアキレス腱を切られたり、掘削機で足を潰されたりという凄惨な私刑(リンチ)を受けている。

(参考記事:アキレス腱切断、掘削機で足を潰す…北朝鮮労働者に加えられる残虐行為

北朝鮮が海外へ工作員を派遣していることについて、米国の人権団体「北朝鮮人権委員会」(HRNK)のグレッグ・スカラチュー事務総長は米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に次のように語った。

「過去の冷戦時代には、東欧諸国も外国に亡命した主要人物を監視、暗殺するために秘密要員を密かに派遣することがあった。しかし、現在こうした行為をする国は北朝鮮しかない」

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スカラチュー氏によると、当時の東欧諸国の工作員は外交官の身分で麻薬取引、武器貿易などの違法ビジネスを行ったり、監視している亡命者を暗殺することもあったという。実際、こうした事例は過去にある。韓国に亡命した故金正日総書記の妻の甥・李韓永(イ・ハニョン)氏は1996年に金日成一族の内幕を暴露。しかし、翌年北朝鮮の工作員によって暗殺された。

今の時代、亡命した北朝鮮幹部、例えば元駐英公使のテ・ヨンホ氏のような人物が工作員によって、いきなり暗殺されるという事態が起こりうるとは考えづらい。その一方で、現場で働く北朝鮮労働者に対する統制はますます厳しくなっている。外貨不足にあえぐ金正恩体制が、海外に派遣された労働者の人権を配慮することなどありえない。国際社会はこうした人権侵害にも厳しい目を注ぐことが必要だ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記