北朝鮮の処刑場所
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面韓国の人権団体が、北朝鮮当局により殺害された人々の集団埋葬場所に関する報告書を発表する方向で準備作業を進めている。
北朝鮮当局は、教化所(刑務所)や管理所(政治犯収容所)の収監者に対して、強制労働、拷問、処刑など様々な人権侵害行為を行なっており、死亡したら裏山に生めたり、火葬したりしていることが明らかになっている。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、北朝鮮の人権問題に取り組む韓国の民間団体「転換期正義ワーキンググループ」(以下、WG)は、昨年9月から脱北者277人に対する聞き取り調査や衛星写真の分析を行った。それをベースに、集団埋葬場所と推定される12ヶ所を把握し、そのうち1〜2ヶ所については確証を強めているという。
北朝鮮における人権侵害の状況を巡っては、衛星写真の分析から様々なことがわかっている。たとえば2014年10月、平壌に近い姜健(カンゴン)総合軍官学校を撮影した写真を見ると、広場に何らかの物体10個が一列に並べられている。それに向かって6門のZPU-4対空機銃が並べられていて、その後ろには、射撃の様子を観察するためと見られる場所が設けられている(下の写真)。
この画像を米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に提供した米北朝鮮人権委員会(HRNK)のグレッグ・スカラチュー事務総長によれば、「対空機銃を使って公開処刑を行っている状況に間違いない」と語っている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そして、アジアプレスは同年10月、北朝鮮の内部情報に基づく「平壌で労働党幹部を集団銃殺か 金正恩氏の指導に違反」と題した記事の中で、10人の労働党幹部が同軍官学校で処刑されたと報じており、HRNKの分析と時期的に符合するのだ。
ちなみに、ZPU-4対空機銃は14.5mm重機関銃4丁をひとつにまとめたもので、6基合計で24の銃口から銃弾が放たれたことになる。この方法で処刑されたとすると、遺体は原形をとどめないほどに破壊されてしまう。
(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…)一度に大量の犠牲者が
ただWGは、来年の4~5月に報告書を発表する時点では、具体的な場所は一般には公表しない方針だ。理由は「北朝鮮当局が証拠隠滅を図るのを阻止するため」(イ・ヨンファン事務局長)だという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮当局は今に至るも、人権侵害の事実を認めていないが、いずれ情勢が変わり、集団埋葬場所の調査が行われるようなことになれば、体制の側で人権侵害を主導した個々の人々が訴追される上での「動かぬ証拠」となり得る。
WGも、ズバリそうした目的からこの調査を行っているのだ。
北朝鮮では、「フルンゼ軍事大学留学組事件」や「黄海製鉄所の虐殺」において、一度に大量の人々が殺害されており、犠牲者が同じ場所に埋葬されている可能性がある。
(参考記事:同窓会を襲った「血の粛清」…北朝鮮の「フルンゼ軍事大学留学組」事件)(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」)
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集団埋葬場所の特定は、金氏3代の独裁と人権犯罪の全貌を明かす上で、欠くことのできない課題であると言える。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。